4話 変わった教師
それから約2週間が経過した。
ゴミ拾いは、毎日とまではいかないが、三日に一度ぐらいの頻度で行っている。相変わらず周りからの目は良いものではないが。
ちなみに現在、豚の腹部には〈510〉と記されている。
そんな生活を送っていた俺は今、制服を着て校門の前に立っていた。実は昨日の夕方に担任からの電話があり、進路面談があるからそれぐらいは来いという旨を伝えられた。
面倒ではあるが、退屈な授業を聞きに行くよりはマシだと思い仕方なく来たのだ。
現在の時刻は16時。今日は昼には授業が終わっているため、部活に励む生徒や駐輪場で駄弁っている生徒がいた。
そんなヤツらは俺を見るや否や、眉を顰めたり目を見開いたりしている。
だが、俺はソイツらに構うことなく、三階の教室へと歩き始めた――。
この学校はどの学年も8クラスある。俺は自分の教室――2年1組の前に立った。ドアをノックしてみる。しかし返事がない。
俺は疑問に思いながらドアを開けてみる。
すると教室の真ん中に、椅子の上で行儀良く背筋を伸ばして、腕組みをし、――眠っている男がいた。
「教師ともあろう方が居眠りですか、山県先生」
俺が呆れつつ声をかけると、その男――山県漢介はゆっくりと目を開ける。
「久しぶりだな、御堂」
山県先生は屈託のない笑みで声をかけてきた。
そして、対面の椅子に腰掛けるように促し、俺が座ると再び口を開く。
「風の噂で聞いたぞ、最近町でゴミ拾いをしているんだってな。いやぁ、感心なことだ」
先生は一人うんうんと頷く。
「そんな話を聴きに来たんじゃないんですよ。さっさと進路面談を始めてください。俺は早く帰りたいんで」
「まあ、そう言うな。生徒との世間話も大事なコミュニケーションもひとつだ。特に御堂はなかなか顔を見せてくれないんだからな」
「そうは言いますけど、先生も居眠りするほどだったんだし、早く帰って寝たいでしょう。なら、本題に早く入りましょう。それに、次のヤツが待っているでしょう?」
「いや、御堂で今日は最後だぞ。だから俺が心ゆくまで話すつもりだ」
「は?」
――調子が狂う教師だ。
不良と呼ばれた俺を、なぜこんなに笑顔で迎えることができるのか。その上、眠たいであろうにも関わらず俺との会話を楽しもうとしている。その辺の教師なら、眠たい中俺のようなヤツをまともに相手にするのは、心底億劫だろう。
本当に変わった教師だ。
これからしばらく拘束されそうな予感がして肩を落とす俺とは対照的に、山県先生は相変わらず楽しそうな表情を浮かべていた。
「御堂がそんなに言うなら、本題に入ろう。お前は卒業してからやりたいことはあるか?」
先生はその表情を崩さずに言った。
「いや、特にないですよ」
「ふむ。じゃあ、大学に行くとかは考えているか?一応ウチは進学校なんだが」
「いや、特に考えてないですよ」
「ふぅむ。じゃあ、就職か?悪くないと思うぞ?」
「いや、特に考えてないですよ」
「ふぅぅむ。じゃあ、俺みたいに教師になるか?」
「いや、それはないですよ」
これではまるで禅問答である。生憎と、俺にはやりたいことなんてないのだ。
先生はそれを感じ取ったのだろうか、顎に手を添えて考えるような仕草をする。
暫くの間、教室内を静寂が包んだ。俺は、これ以上の会話は無意味だろうと判断し、椅子から立ち上がろうとした――その時だった。
ダンッ、ダンッ、と静寂を壊すかのように、廊下の方から激しい物音が響き渡ったのだった。
お読みいただきありがとうございました。
新たに、担任の山県漢介先生が登場しましたね。
個人的には最後のやり取りがお気に入りです(笑)。
そして、最後の激しい物音の正体とは?
それでは、次回もまたよろしくお願いします。
(→ω←)