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善行貯金箱  作者: 案内なび
募金活動・期末試験編
39/42

39話 再燃する思い

大和の過去は次回になります。前回の後書きで記した予定と変わってしまい申し訳ありません。ご了承ください。

 あの日からちょうど一週間。

 俺の生活は生徒会執行部に入る前と同じに戻っていた。


 学校には行かず、ただ家で惰眠を(むさぼ)るだけの日々――。

 善行貯金のためにやっていたゴミ拾いも、今は学校のヤツらに会いたくなくてやっていない。

 やっているとすれば、家事をして貯金をするくらいだ。

 それでも、大した金額にはならないが……。


 そうやって学校とは離れた生活をしていたためか、少しは心が回復してきている感じがしている。

 とは言っても、依然として心の傷は深いまま。

 当然、あの時のことを思い出すと腹が立つし、感情的に動いてしまったことを後悔している。


 完全に立ち直れる頃には、きっと夏休みも真っ盛りかもしれない。それまではこうして、一日の大半をソファの上で過ごしていくのだろう。


 でも、時々ふと思うことがある。


「アイツら、何やってんだろな……」


 難波(なんば)浦上(うらかみ)にテストで勝てたんだろうか?

 小牧(こまき)は今日も浦上に狂っているんだろうか?

 そんな二人を浦上は微笑ましく見つめているんだろうか?

 キャンバスのように真っ白な天井に、アイツらの顔が浮かんでは消えていく。


 アイツらと活動することはもう無いのかもしれないと思うと、なんだか胸がギュッと締めつけられて苦しい。

 たった二ヶ月ほど一緒に過ごしただけなのに。


「はぁ……やめだやめだ。辛いだけだ」


 かぶりを振り、身体を起こす。

 この一週間でもう何度この動きを繰り返したのかも分からない。

 ――本当に、いつからこんな弱くなったんだろな、俺は。

 ソファの生地を見つめてそう思った。


 すると、その時――。


「やまと〜、そろそろ晩ご飯作らな〜い? 私、お腹空いたよ〜」


 右の方から、姉さんの腑抜けたような声が聞こえてきた。

 振り向くと、ダイニングテーブルに上半身をぐでっと横たえる姉さんの姿があった。ノートパソコンを開いているあたり、大学の課題か何かをしていたのかもしれない。


 ふと斜め上の壁掛け時計を見ると、時刻は午後五時すぎを示していた。確かに腹の虫が鳴ってもおかしくない時間だ。


「分かった。んじゃ、なんか作るか」


「わーい! なに作る〜?」


「冷蔵庫ん中、何が残ってったっけ?」


「んーっとね、確かお豆腐と……」


 そうして俺と姉さんが立ち上がり、冷蔵庫の中を確認しに行こうとした時だった。


 ――ピンポーン。

 と、インターホンの電子音がリビングに響いた。


「誰だ?」


「誰だろね? とりあえず私が出るよ」


「あぁ。なら、こっちで冷蔵庫確認しとく」


「おっけー」


 そう言って姉さんはリビングの扉を開けると、「はーい、今行きまーす」と玄関に向かって行った。


 ――まさか、な。

 心臓がドクンと脈打った気がしたが、気づかないフリをして冷蔵庫の一番上の扉を開ける。


「んーっと? 豆腐、納豆、油揚げ……」


 いや、大豆もの多いな。

 

合挽(あいびき)あるな。そぼろ豆腐にでもするか…… ?」


 これなら割と簡単に作れるし、姉さんも頷いてくれるだろう。


「あともう一品は……」


 と、再び冷蔵庫を探り始めたその時だった。

 ガチャリ、とリビングの扉が開いたかと思えば――。


「大和、ちょっと来て」


 神妙そうな顔付きで姉さんが手招きをしてきた。

 ――まさか、本当に?

 心臓の鼓動がドクドクと速くなるを感じる。


「……なんだ?」


 冷静を装いながら冷蔵庫を閉めると、姉さんは一つ間を置いて口にした。聞きたいようで聞きたくなかった、その言葉を――。


凪沙(なぎさ)ちゃんたちが来たの。()()()()()()()()()()()。大和に話したいことがあるって……」


 刹那、心臓がギュッと鷲掴みされたような感覚がした。

 浦上たちがいるのはなんとなく予想していたが、()()()()()()()って――。


「っ……」

 

 鷲掴みにされた心臓から不安が絞り出され、全身が強張(こわば)る。

 

「……一緒にいようか?」


「頼んだ……」


 俺の様子を見て察してくれたのか、姉さんは俺のことを気にしてくれ、俺もまた姉さんを頼ることにした。


 それでもまだまだ不安は消えないが……、俺は意を決して姉さんとともに玄関へ向かうのだった。


★―★―★


 ジリジリと夏の夕陽が肌を刺し、やんややんやと蝉が騒ぐ住宅街。その中で自転車数台が道端に止められている家の扉が、ガチャリ、と開いた。


 中から現れたのは、御堂(みどう)姉の姿。

 そしてその後ろから、御堂大和が姿を現した。

 上下とも学校の黒ジャージだ。


「お前ら……」


 ポツリ、と御堂が呟く。

 一瞬だけ御堂と目が合ったような気がして、俺は思わず目線を逸らしてしまった。――だが、その時。


「……瑠唯(るい)?」


 突然、俺の右隣にいた瑠唯が段差を登って行ったかと思うと――。


「なんでヒロを殴った……」


「っ……!」


「なんで、あの時っ! ヒロを殴ったんだよっ!!」


 また瑠唯が掴みかかったのだ。――それも両手で。


「ちょっ、何してるの!?」


 御堂姉が(つんざ)くように叫ぶ。

 反射的に御堂も首元にある瑠唯の両手を掴んだ。

 俺は瑠唯を止めようと、左足を一歩前の段差に掛けた。

 けれどその瞬間、瑠唯に拒絶された時のことを思い出してしまい――。


「っ……」


 踏み出した左足を、また戻してしまった。

 俺の左隣にいた御厨(みくりや)もまた、身体を震わせて動けずにいるようだった。


「ねぇやめてよ!」

王子(おうじ)お前いい加減にしろって!」


 動けない俺たちの代わりに、御堂姉と難波が瑠唯を引き剥がそうとする。――けれど。


「答えろよっ!! お前の所為で! ヒロは学校に来なくなったんだぞっ!!」


 瑠唯は感情任せに激しく御堂を揺さぶり、その手を離そうとはしなかった。

 一方で御堂は何を思っているのか、瑠唯の両手は掴んでいるものの、俯いているだけで抵抗する素振りを見せなかった。


 なかなか治らない瑠唯の怒り。

 今回は先生がいない上、怒りの原因が目の前にいるのだ。

 だから、止めようにも止められない気がして、俺は諦めかけてしまった。


 けれどその時、浦上さんが瑠唯の後ろへ近づいていくと――。


「王子くん、このままだと通りかかった人に通報されますよ?」


 そう口にした。刹那、瑠唯の動きがピタリと止まった。

 浦上さんの一言で今の状況に気づいてくれたらしい。

 幸い今のところは誰も通りかかっていないが、騒ぎを聞きつけて近所の人が家から出てくる可能性はあった。


「ちっ……クソッ!」


 瑠唯は舌打ちをし、御堂を突き飛ばすように両手を離す。

 その所為で、御堂はふらついて倒れそうになった。

 けれど、御堂姉がすぐに片手を伸ばして受け止める。

 おかげで、なんとか御堂は立ったままでいられた。


「大丈夫、大和……?」


 御堂姉が覗き込むように尋ねる。

 けれど、御堂は無言のまま頷くだけだった。


 ふと右からほうっと息を吐く音が聞こえる。

 小牧さんが安堵の息を漏らしたらしい。


 そうして周りが落ち着いていく中、瑠唯だけは依然として御堂を睨んだまま荒い呼吸をしていた。暑さの影響も相まってか、陶器のような白い首筋には汗が滲んでいる。

 瑠唯の腕を取り押さえている難波も、頬から汗を流していた。


 (たちま)ち訪れる静寂――。玄関先に八人もいるのに誰も話さない光景は、なんだか不思議な感覚だった。いつの間にか、蝉の鳴き声も減ってきているような気がする。

 

 やがて静寂を払うように、言葉が聞こえてきた。


「ねぇ大和、ヒロって……」


 不安そうに何かを確認しようとする御堂姉。

 当の御堂は暫く俯いて何も言わないままだったが、やがてポツリと言葉を紡いだ。


 けれど、その言葉はあまりにも衝撃的で、俺は開いた口が塞がらなかったのだった。



天宮(あまみや)は、死ぬかもしれなかったんだ――」



お読みいただきありがとうございました。

瑠唯の怒りによって自身の過去を語り始めた大和。

あの時、天宮陽良の身に何があったのか?

そして、大和が天宮陽良を平手打ちした理由とは?

次回こそ大和の過去編です。お楽しみに。


なお、次回は3月末から4月初旬ごろに投稿予定です。

それでは、次回もまたよろしくお願いします(→ω←)

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