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善行貯金箱  作者: 案内なび
募金活動・期末試験編
37/42

37話 宣告と告白

更新が遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。

新年からひと月以上経過してしまいましたが、今年も『善行貯金箱』をどうぞよろしくお願いいたします。

 試験最終日からちょうど一週間。今日この日、試験の結果が返却された。放課後になると、結果の良し悪しを話し合う声がワイワイと聞こえたが、俺――勝烏(しょう)瑠唯(るい)は教室には残らず、生徒会室で駄弁(だべ)っていた。




「――で、テストどうだったかい?」


 左手で頬杖を突きながら俺に尋ねた瑠唯。その向けられた微笑みに、俺は「んー」と少し唸って答える。


「俺はまぁいつも通りって感じ。生物が80点で自己ベストだったけど、他が下がってたし、順位はほぼ変わらなかったな。瑠唯は?」


「俺は前より思いっきり下がったね。でも、後悔はしてないよ」


 そう言ってふふっと笑う瑠唯。その言葉通り後悔はしていないのだろう、その目には曇り一つないように見える。


「確かに、()()()()ずっと機嫌いいもんな」


「そんなに分かりやすいかい?」


「おん。ずっと上機嫌ってよりかは、憑き物が落ちて機嫌が安定してるって感じだけど」


 というのも、御堂を嵌めてから御堂は学校に来なくなり、そのお陰か瑠唯の機嫌が安定しているのだ。


「なるほどね。言えてるかも」

 

 瑠唯曰く、あの時、御堂が歯噛みをして飛び出して行った時の爽快感・達成感は言葉にできないほどだったそう。共に計画を手伝った俺としてもその報告は嬉しかったし、何より瑠唯がまた心から笑ってくれるようになったのがとても嬉しかった。


 報告を受けたのが化学基礎のテストの直前だったお陰で、嬉しさのあまりにテストに全然集中できず、前より10点くらい点数を落としたけれど……。まぁ、親友の心が晴れたのならそれで満足だ。


「それにしてもだけどさ」


 すると、瑠唯はそう言って顔を近づけてきたかと思えば。


「まさか、こんなに影響があるとはね」


 と、囁きながら小さく親指をクイっと立てた。

 瑠唯が指した方――俺たちから見て左側を見ると、そこには浮かない顔をした三人がいた。難波(なんば)浦上(うらかみ)さん、小牧(こまき)さんだ。


 俺たちから見て左から(三人から見て右から)小牧さん、浦上さん、一つ空いて難波という順番に座っているのだが、その空いた席がアイツらにとっての(うつろ)だと言わんばかりに、三人とも表情が暗い。


「……あー、確かにな」


 みんな御堂と仲が良かったヤツらだ。御堂が来なくなった理由を知っているのかは分からないが、御堂が来なくなったことが相当ショックなのだろう。アイツらにとって御堂の存在が、それほどまでに大きくなっていたのなら意外だが――。


「でも、これが瑠唯の望んだことだろ?」

「まぁね」


 この結果こそが俺たち――何より瑠唯の悲願だったのだ。

 瑠唯の過去と直接関係のないアイツらに対しては少し罪悪感があるが……、それでも瑠唯の心が晴れやかになったのだ。瑠唯のことは誰にも責めて欲しくない。


 一つ気になるのは、俺たちの左――瑠唯から一つ空けて座る御厨(みくりや)の表情も曇っているような気がすること。ただ、目元が髪に隠れている所為(せい)で暗く見えるだけかもしれないが。


 なお、俺たちの正面に座る高坂(こうさか)先輩は黙々と読書をしているため、こちらも何を考えているのかは分からない。高坂先輩は滅多に表情を変えないから、普段から何を考えてるのか分からないけれど。


 そんな感じで多種多様な空気感が入り混じる生徒会室。けれどそれは一度、ある人物の声によって(まと)まることになる。


「――揃っているか?」


 そうして俺たちが雑談をしていた時のこと。俺の斜め右後ろにある生徒会室の扉がガラガラと開いたかと思うと、低くてやや威圧感のある声が生徒会室に響いた。


 声の主を確認すべく後ろを振り向くと、そこには(いわお)(みつる)先生ことナマハゲの姿があった。そして、ナマハゲは俺の右斜め前の席――難波ら三人と真反対の席までつかつか歩くと、そこに手荷物を置くや否や。


「今日は大事な知らせがある」


 そう口にした。

 刹那、場の空気が変わり、静寂が訪れるのを感じた。

 ピリッと肌が刺激されるような、張り詰めた空気感だ。


 ふと左に目を向けると、瑠唯は何だか興味深そうに少し口角を上げている。御厨の表情は瑠唯の頭でちょうど見えないが、顔はナマハゲの方に向けているように見える。


 一方、難波、浦上さん、小牧さんの三人は――。


「お知らせって何でしょうね、先輩……」

「……分からないです」

「…………」


 と、小牧さんの呟くような質問に浦上さんが小さく首を横に振り、難波は無言のまま机の上で指を組んだり解いたりしていた。きっと不安なのだろう。


 目線をナマハゲに戻す途中、高坂先輩の表情も少しだけ見えた。けれど、読書を止めたとはいえ、やはり無表情のままだった。


 いつになく漂う緊張感――。

 やがてナマハゲは一呼吸を置くと、手を後ろに組み言葉を紡いだ。


 俺たちが待ち望んでいた、その言葉を――。


「この度、御堂大和は生徒会執行部から退部することになった」


「「……っ!?」」


 瞬間、声にならない声が教室を埋め尽くした。

 再び静寂が訪れる。まるで時が止まったようだ。

 けれど、その静寂も一人の声によって払われる。


「……巌先生、それはなぜですか?」


 静寂を破ったのは難波だった。

 片手を挙げたままジッとナマハゲを見つめる難波。

 その声は普段よりも明らかに低い。

 けれど、ナマハゲはそんな難波に対して淡々と答える。


「御堂が約束を守れなかった。それだけだ」


「……約束って、全教科で85点以上取るってヤツですか?」


「あぁ」


「……最終日に、試験を受けなかったからですか?」


「あぁ」


「……因みに先生は、御堂が試験を受けずに帰った理由を知っているんですか?」


「知らない。知らないが、受けなかったのは事実だ」


「……っ」


 ナマハゲの淡々とした返答に、とうとう黙り込む難波。

 そのやり取りに俺は少しホッとした。俺たちが御堂を嵌めたことが、少なくともナマハゲには伝わっていなかったからだ。


 だが、ナマハゲに対する質問は終わらない。

 難波の後を継ぐように言葉を発したのは、小牧さんだった。

 

「で、でも先生、先輩は私たちとずっと一緒に勉強を頑張っていたんですよ。一ヶ月前からみんなで図書館で居残り勉強をして、分からないところを教えあって……。なのに、その頑張りは認めてあげないんですか……?」


 恐る恐るだが、立ち上がって問い(ただ)す小牧さん。

 その横で浦上さんは、ただ俯くままだった。

 しかし、その問いに対してもナマハゲは――。


「知っている。放課後に居残り勉強をしていたことも、その頑張りで()()()()()()8()5()()()()()()()()ことも」


「っで、でしたら――」


「だが」


 と、ナマハゲは小牧さんの言葉に割り込むと、その言葉を――小牧さんたちにとっては余りにも現実的で酷な言葉を口にした。


「全教科85点を取るという約束だったのだ。受けた科目が全て85点以上であっても、受けていない科目があるならそれは0(れい)点だということ。(すなわ)ち、約束を果たしたことにはならない。酷なことを言うようだが、約束は約束だ。約束を果たせたなら存続、約束を果たせなかったなら退部。それ以上でもそれ以下でもない」


「そんな……あんまりです……」


 ナマハゲの主張に納得していない様子の小牧さん。けれど、それ以上の反論はできなかったようで、そのまま脱力するように腰を落としてしまった。


 小牧さんの言及でもバレず、俺は内心でホッと一息吐く。

 一方の瑠唯は、ただ澄ましたような顔で見つめていた。 いや、少し誇らしげにも見える。まるで、『やっぱり俺の作戦は完璧だったね』とでも言うかのように――。


「伝達は以上だ」


 そうして、御堂に関する話は終わった。

 これで俺たちの計画も終わり、また御堂がいる前の日常に戻る。

 そう気楽に思っていた。――この時までは。

 

「では、ここからは文化祭について――」


 そうしてナマハゲが再び口を開いた瞬間だった。


「待ってください……!」


 一人の声が左側から聞こえた。

 何だと思い振り向くと、さっきまで黙っていた御厨が手を挙げて立ち上がっていたのだ。


「どうした、御厨」


 怪訝そうな声音で問いかけるナマハゲ。

 何かを感じたのか、途端に顔色が曇り出す瑠唯。

 ――まさか。

 そう思った瞬間、俺の予感は的中してしまうのだった。



「御堂先輩は悪くないです。悪いのは……僕なんです……!」



お読みいただきありがとうございました。

巌先生(ナマハゲ)から伝えられた大和くんの退部。

そして、突然立ち上がって告白をした御厨くん。

果たしてこの後どうなるのでしょか?

この編もいよいよ終盤です……!


次回は2月末までに投稿する予定です。お楽しみに。

そして、1月中に投稿できず、改めて申し訳ありませんでした。


それでは、次回もまたよろしくお願いします(→ω←)

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