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善行貯金箱  作者: 案内なび
出会い編
3/42

3話 価値

 帰宅した俺は結んだゴミ袋を玄関の脇に置き、リビングに入った。部屋の壁掛け時計は、既に12時半を示している。

 時の流れに少々驚きつつも、ソファにゆったりと腰を落ち着けて机上の貯金箱を眺めた。


「――さて、いくらほど貯まったのかねぇ」


 独り言を呟きながら、貯金箱を手に取る。

 大層な額は期待していないが、一時間分の仕事に見合うぐらいの額は入っていて欲しいものだ。そう思いながら貯金箱を振ってみると。


 ――ジャラ、ジャラ

 と、金属同士がぶつかり合う音が聞こえた。

 昨日より確実に増えている。だが、中身は相変わらず少ないように思えた。


「やっぱり、そう簡単には増えないもんだな」


 そうして一人現実に思いを馳せていた時だった。

 俺はふと、豚のお腹に違和感を感じた。裏返して見てみると、"101"という文字が浮かんでいた。


「……なんだ、この数字は?」


 昨日までは無かったような気がするが、単に見落としただけだろうか。この数字はいったい何を表している? ――いや、まさかとは思うが。


「これ……貯金額か?」


 改めてそれを振ってみる。再度、金属どうしがぶつかり合う音が響く。感覚的にも2枚しか入っていないと思われる。つまり、あの数字は貯金額を表していると考えられるのだ。

 けれど、その数字を見た俺は。


「あれで100円とは、お前もなかなか世知辛いんだな」


 と、喋るはずのないソイツに愚痴をこぼした。

 そして、貯金箱を机に置き、昼食のカップ麺を作るために立ち上がったのだった。


★―★―★


 18時を過ぎた頃、姉さんは帰宅した。

 姉さんは、大学用のトートバッグを椅子の背に掛け、マイバッグを机の上に置く。


「――で、今日はどうだったの?」


 姉さんは、買ってきた惣菜をマイバッグから取り出しながら俺に尋ねる。

 俺はソファに寝転んだ体勢で、今晩の惣菜をちら見する。今晩はコロッケとメンチカツ、それにポテトサラダらしい。


「豚のお腹を見てみな」


 俺がそう言うと、ひとしきりの惣菜を出し終えた姉さんは豚の腹部を確認した。


「……101?」


「ああ、恐らくだが現在の貯金額を表している」


「ふーん、やっぱりそう簡単には増えないのね」


 昨日から何度も思っているが、現実は甘くないものだ。

 しかし、姉さんは意外な考えを口にする。


「だけどさあ、こうとも考えられない? 家での手伝いよりも外で何かする方が、100倍の価値があるって」


 逆転の発想をしたらしい。だが。


「……どうだろうな。俺は大差ないと感じたが」


「もしそうなら、これから毎日外でゴミ拾いをするのも意味があるんじゃない?」


「面倒だし、最低賃金よりも低いんじゃあちょっとなぁ」


「ちりつもちりつも、続けることが大事だよ。そうしたら結果は後から付いてくるもんだからね」


 『塵も積もれば山となる』という(ことわざ)を若者言葉風に簡略化した姉さんは、何故か決まったと言わんばかりのドヤ顔を決めている。実際、若者ではあるが。


「……気分が乗ればな。それよりも、冷めない内にさっさと飯にしようぜ」


「はいはい。もう、大和君は卑しいんだからー」


「あ?」


「いや、なんでもございませんよー」


「ったく……」


 マイペースに冗談を言う姉さんに、俺は頭を抱えながら夕飯の準備を始めた。

 ただ、姉さんの言うように、()()()()というのは大切なのかもしれない。


 だが、不良のような性格を直そうと()()()()したにも関わらず直せなかった俺にとっては、徒労に終わるだけの思考としか思えなかったのだった。

お読みいただきありがとうございました。

コロッケとメンチカツって美味しいですよね。

ただ両方主菜となると、似たもの同士なので、食べ合わせ的にどうなんでしょうか。

大和君は気にしてなさそうでしたが、舞香のセンスが垣間見えましたね。

それでは、次回もまたよろしくお願いします。

(→ω←)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 初めまして! 善行貯金箱、面白い設定ですね。 でもなかなかお金が貯まらない。 これなら普通のバイトの方が儲かるが、 善行を行う事が大事そうですね。 面白かったので、ブクマさせて頂きました。…
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