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善行貯金箱  作者: 案内なび
募金活動・期末試験編
28/42

28話 級友粛して後輩来たる

 それから約2週間後が経過し、いよいよ募金活動当日である6月27日を迎えた。昨日まで一週間ほど降り続いていた長雨(ながめ)から一転、今日は晴れやかな空が広がっている。所謂(いわゆる)『梅雨の晴れ間』というヤツだ。


 本格的に暑さが増していく中、俺と姉さんは明星駅(あけぼしえき)に向かっていた。その目的は、俺は勿論そこで執行部のヤツらと募金活動をするため、姉さんはバイト先に向かうついでに俺の護衛をするため(?)だ。


 チラリとスマホの時計を確認すると、8時12分を示している。8時ごろに家を出発したので、もうあと数分で駅に着くだろう。集合時間の8時45分には余裕で間に合いそうだ。むしろ早く出過ぎたかもしれない。


「……っと、見えてきたな」


「おっ、だね〜」


 そうこうしているうちに、駅の南口が見えてきた。土曜日の午前中にも関わらず人の出入りは少なさそうである。ただそのお陰で、駅の端で集まっているヤツら数人を確認することはできた。


 そこに居たのは、俺と同じくらいの身長の男子に、壁にもたれ掛かるショートヘアの女子、そして後ろ髪を一つ(くく)りにしている女子の3人。いずれも、夏用の制服に身を包んでいる。


 するとこちらに気づいたのだろうか、その内の一人が手を振ってきた。


「ねぇ、あの男の子すっごくこっちに手振ってるけど、もしかして」


「あぁ、執行部のヤツだ。……ありゃあ多分難波(なんば)だろうな」


 姉さんの質問に答えつつ、俺は右手を軽く胸の辺りまで挙げた。――の、だが。


「へぇ〜?」


「何ニヤついてんだよ、気持ちわりぃな……」


 ふと隣を見ると、何故か姉さんはニヤニヤと口角を上げていたのだ。


「だって〜、大和に手を振り合えるような友だちができたのが嬉しくって〜」


「人を何だと思ってんだ……」


 そうは言ったものの、姉さんの言う通りであるために、これ以上言い返すことはできなかった。まぁ俺自身、そこまで気にしてはいないが。


 そんな感じで姉さんと話していると、(ようや)く駅前に到着した。


「おはよう、大和(やまと)!」

「おはようございます、御堂(みどう)君」

「おはよう」


「あぁ、おはよう」


 駅の端で集まっていた三人――難波、浦上(うらかみ)高坂(こうさか)に挨拶をされ、俺も言葉を返した。

 と、その時だった。


「あっ、きみ! あの時の!」


 姉さんが驚いたように口元を抑え、誰かを指差していた。その指先を辿ると、そこにいたのは難波だった。


 姉さんの一言を聞いた浦上は難波の方を振り向き、高坂は目線だけ難波の方に向けている。高坂の場合は壁にもたれ掛かりつつ両手脚を組んだ状態で、だが。


 一方の難波はいつもとは違う妙な笑みを浮かべている。

 いったい何があったのだろうか?


「ん? なんだ姉さん、難波を知ってるのか?」

「いや知ってるも何も――」


 そして、姉さんが続けざまに口にした言葉は、あまりにも衝撃的なものだった。


「この子、この前私にナンパしてきた子だもん!」

 

「「……え!?」」

「……」

「……は、ははっ」


 一斉にハモる俺と浦上。無言のまま横目で難波を見る高坂。そして、目が泳ぎに泳いでいる難波。周りの一般人の視線も集めてしまうほど衝撃的な姉さんのカミングアウトに、様々な反応が飛び交った。


 なるほど。以前、難波の変態性を垣間見たために姉さんとは合わせたくないと思っていたが、どうやらその考えは当たりだったらしい。


「へぇ〜? 難波ぁ、お前いい度胸してんじゃねぇか?」


「や、大和……なんでそんな笑顔で近づいて来るんだい……? 怖いよ……?」


「さぁ? なんでだろうなぁ?」


「い、いいっ、一回落ち着いて話し合わないかい!? こっ、これには深いワケがあってね……?」


「ナンパにワケもクソもねぇだろ。己の欲望に従っただけじゃねぇのか?」


 後退(あとずさ)難波(へんたい)と詰め寄る俺。

 そして遂に難波(へんたい)は駅の壁に背中をぶつける。


「浦上さん! 高坂先輩! 助けてくれないかい!?」


 追い込まれた難波(へんたい)は必死そうに助けを求めた。だが。


「……難波君、見損ないました」

「自業自得だ」


 女子二人には、呆気(あっけ)なく見捨てられてしまった。

 難波(へんたい)の顔色はどんどん失われ、しまいには壁に沿うように崩れ落ちてしまった。


 (はた)から見ればイジメにも見られかねないので、そろそろ止めておくことにしよう。


「まぁまぁ安心しろ難波」

「な、何がだい……?」


 救いを求めるような眼差しで俺を見上げる難波(へんたい)。俺はソイツの目線に合わせるように屈み、その()()を掛けてやった。


「こんな所で騒ぎを起こしたくはねぇから、ここは()()といてやるよ。まぁせいぜい楽しみにしとくんだなぁ」


「余計に怖いってぇぇぇぇ!!」


 そうして、悲鳴とも絶叫とも取れるような難波(へんたい)の大声が駅前に響き渡るのであった。


 因みに、この難波(へんたい)を恐らく無意識に公開処刑にしてしまった張本人はというと――。


「あははっ、なんかごめんね……?」


 両手を合わせ、軽く頭を下げただけなのであった。


★―★―★


 それから姉さんは浦上たちと少し会話をした後、「そろそろバイトに行くね〜!」と、駅の中へ去っていった。


 会話の中で意外だったのが、高坂も会話に混ざっていたことだ。口数こそいつも通り少なかったものの、聞かれたことには普通に答えていたし、なにより何処(どこ)となく柔らかな目をしていた気がしたのだ。最後だけは俺の勘違いかもしれないが。


 そうして現在、駅前の時計塔は集合時刻の8時45分を示している。他の部員やナマハゲも既に到着し、いよいよナマハゲによる説明が始まろうとしていた――。


「それでは説明を始める。今回の募金活動をするに当たっては、ペアで行動してもらう。一人は募金箱を持つ係、もう一人は募金した人にこの羽根を渡す係だ」


 そう言ってナマハゲは、小さな袋から桃色の羽根を取り出して見せた。


「そして、そこから北口と南口のふたグループに分かれてもらう。人数は丁度8人だから、4人ずつ、つまりは2ペアごとだ。早速だが、誰とでもいいからペアを作るように。続きはそれから話す」


 ナマハゲは言い終えると腕を組み、俺たちが行動し終えるのを待った。


 ――まぁ俺は難波とでも組むか。

 そう思い、俺は難波に声をかけようとした――その瞬間だった。


「御堂先輩、良ければ僕と組んでくれませんか?」


 突如、背後から俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。


「あ? 誰だ?」


 声の主を確認すべく振り返ると、そこにいたのは――。


「直接お話しするのは初めてですね、御堂先輩。僕は1年の御厨(みくりや)海斗(かいと)です。僕とペアになっていただけないでしょうか?」


 四角い黒縁メガネと、それにかかる長い前髪が特徴的な少年――御厨海斗だった。

お読みいただきありがとうございました。

前回までが重たい話だったので、今回は軽めのネタ回です。

因みにお姉さんがナンパされた話は、14話にあります。

今回が28話なので、14話ぶりの伏線回収ですね(物語の半分って)。


この作品がお気に召しましたら、いいねや★、ブックマークをつけていただけると嬉しいです!

感想もお待ちしております!

それでは、次回もまたよろしくお願いします(→ω←)

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