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善行貯金箱  作者: 案内なび
募金活動・期末試験編
26/42

26話 瑠唯の過去①

 小学生時代、俺――いや、僕は暗い性格ゆえに友だちがいなかった。休み時間にひとりぼっちは当たり前。体育でペアになる時に僕だけ余るのも、いつものことだった。


 そんな中で僕は小学校を卒業し、中学生になった。

 でもどうせ僕に友達はできない。そう思っていた。

 そんな矢先、僕に声を掛けてくれたのがヒロ――天宮(あまみや)陽良(ひろ)だった。



★―★―★



「なぁ、ちょっといいか?」


「えっ? あ、はい。大丈夫ですけど……」


 窓辺の桜が舞い散り、うららかな風が新しい教室を吹き抜ける朝。僕が読書をしていると、突然左隣に座っていた人物が声をかけてきた。


 黒髪ショートヘアに、少し吊り目で二重な目。太陽のように明るくニッと微笑むその丸顔は、どこか中性的な印象だ。


「良かったらさ、春休みのワークの答え、ちょっと見せてくんない?」


「……え?」


「いやぁ、ちゃんとワークはやったんだけどさ、答えだけ失くしちゃって」


 見知らぬその人は「お願い」と言うと、両手を合わせて頭を下げてきた。


 ――え、何いきなり? というか本当にちゃんとやってきたの?

 思わず疑ってしまったが、その辺はどうでもいいかと思い、僕は新しい通学鞄からワークの答えを取り出してその人に渡してあげた。


「ありがとな、助かるよ」


「いえいえ、頑張ってくださいね」


 そうして彼は、足元に置いていた鞄からワークを取り出した。その裏面には『天宮陽良』とあった。

 

 ――なんて読むんだろう?

 僕はその読みを推測しつつ、答え合わせを始めようとする彼を少し観察していた。

 すると――。


「……いや、まっさらじゃないですか」


「あはっ、バレた?」


 僕がチラリと覗いて見ると、彼が開いていたページは見事なまでに空欄だけだった。それだけではない。ページを(めく)る度に空白地帯が現れてくるのだ。

 そんな状態に、僕は思わず――。


「……騙しましたね?」


 彼をジトっと見つめた。

 すると、彼は慌てた様子で。


「あ、いや、別に騙すつもりとかは無かったんだけど! ……まぁ、結果的に騙すことになっちゃったな。ごめんっ!」


 と、先程と同じポーズで勢いよく頭を下げた。

 まともに宿題をしないような人だけど、根はいい人なのかな? 多分。


「……まぁ別に気にしてないのでいいですけど。それより時間が勿体ないので、早く終わらせた方がいいですよ」


「ははっ、そうだな。ありがと。……っと、そういえば自己紹介がまだだったな」


 そう言うと、遂にその人は自分の名前を口にした。


「俺の名前は天宮(あまみや)陽良(ひろ)。ヒロって呼んでくれ!」


「あっ、ヒロさんって言うんですね。僕は王子(おうじ)瑠唯(るい)です。よろしくお願いします」


「ルイ君か。いい名前だね。これからよろしくな、ルイ! あぁそれと、『さん』は付けなくていいからな!」

 

 そう言って彼が向けてくれた笑顔は、どこか眩しくて、どこか暖かかった。まるで春の太陽のようだ。

 

「あぁ、えっと、それじゃあヒロ……くん、頑張ってね」


「ははっ、丁寧なヤツなんだな! さんきゅ、ルイ!」


 そうしてヒロは、間に合うかも怪しい課題に取り掛かり始めた。


 ――それにしても、ヒロくん。こんな僕にまで声をかけてくれて、いい人だなぁ。

 もしかしたらヒロくんなら親友になってくれるかもしれない。そう思うと、胸が少しドキリとして、けれどどこかワクワクして。新学期の緊張も相まって、僕の胸は忙しなく鼓動していた。


 そんな感情に浸りつつ、僕は読書を再開すべく、視線を彼から自分の手元に滑らせた――その時だった。


 ふと、僕の視線は彼の鞄で止まってしまった。

 同時に、彼に対する疑念が生じてしまう。なぜなら。


 ――あれ? 鞄の中に答え入ってる……。

 

 いくつかの課題が入っているその一番上に、その答えは入っていた。おまけに、雑に入れていた所為でグシャリと折れ曲がっているワケでもなく、むしろ丁寧に入れられている。


 ――コレ、本当に今まで気づかなかったの?

 ますます疑問に思った僕は、一応気づかなかった可能性も考慮して教えてあげようとした。

 だが。


「…………」


 一生懸命に手を動かしている彼を見ていると、横槍を入れるのは憚られてしまった。

 

 ――まぁ僕はもう終わらせているし、貸していても別にいいか。

 答えを借りて宿題を丸写しする彼を横目に、僕は読書を再開するのだった。


 これが僕とヒロの出会いだった。



★―★―★



 それ以来、ヒロは僕に絡んでくれるようになった。

 休み時間はいつも一緒にいるし、放課後にどこかへ遊びに行くこともあった。


「ルイは顔立ちがいいんだから、イメチェンして笑顔を意識したらモテるだろうな」と言われ、ヒロと一緒に美容院へ行ってみたり、鏡の前で笑顔を作る練習もしたりした。


 そのお陰か、自然と明るい性格に変わっていき、一人称も「俺」に代わっていった。

 その変貌っぷりは、ヒロが思わず。


「正直俺も、ここまで変わるとは思わなかったよ」

 と、驚きの言葉を漏らすほどだった。


 だが、驚いたのはヒロだけではない。俺もヒロに驚かされたのだ。というのも――。






「えっ!? ヒロって女だったの!?」


「あはは、実はそうなんだよね」


 中学1年生という期間が終わる終業式の日の放課後。突然ヒロは校舎裏に俺を呼び出したかと思えば、衝撃のカミングアウトを口にしたのだ。


「どうして今……?」


「いやぁ、ずっと言おうかどうか迷ってはいたんだよね。だけど、なかなか切り出す勇気が出なかったんだよ。ルイに嫌われたくなくって……」

 

 そう言って一瞬視線を落とすヒロ。対する俺はきっと、呆けた顔をしていただろう。

 やがてヒロは、もう一度顔をあげて言葉を続ける。


「……でも、これ以上隠したままモヤモヤするのも嫌だったんだ。だから1年生という期間が終わる今日この日に、全てを打ち明けてしまおうって……そう決心したんだ。……ごめんね、今まで黙ってて。嫌だよね、親友が女だったなんて」


 ヒロの目が潤む。こんなヒロを見るのは初めてだった。

 胸が痛い。でも、ヒロはもっと胸が痛いだろう。なんせ、嫌われるかもしれないと思っているのだ。

 だから僕は、気づけばヒロにその言葉をかけていた。


「……嫌いになんてならないよ」


「……え?」


「嫌いになるワケがないよ。だって、ヒロは俺を変えてくれたんだよ? そんな恩人を性別一つで嫌いになんてなったりしない。ヒロはヒロだって、俺は思ってるからね」


 なんだかクサい台詞(せりふ)になってしまったなと思ったが、それでもコレは紛れもない本心であった。

 だから。


「だから、これからも俺の親友でいてほしいな」


 俺は、ヒロに教えてもらって出来るようになったその笑顔を、ヒロに向けながら右手を差し伸べた。


「……()()()から思っていたけどやっぱり優しいね、ルイは……」


「……え?」


「ううん、なんでもないよ。ありがとうな、ルイ。俺の方こそこれからもよろしくなっ!」


 ヒロは溢れかけていた涙を袖で拭うと、僕の手を取った。その顔は、紛れもなく今まで見た中で1番の笑顔で、1番ヒロに似合う表情だった――。



★―★―★



 この一件以降、俺とヒロの友情はさらに強固なものへとなっていた。

 絶対に切られることのない絆。生まれて初めて得たそれを、俺は一生大事にするつもりだった。たとえそこに、男女という性差があったとしても――だった。


 けれど、それが叶うことはなかった。

 2年生に進級して以降、ある夏の日を境に、ヒロは学校へと来る回数が少なくなっていった。


 最初は風邪を拗らせていると思っていた。

 だけど、偶然()()()()を見た時、そうではないと確信すると同時に怒りも湧いてきたんだ。


 今思い出しても、無性に腹が立つ。


 放課後の校舎裏。御堂(アイツ)がヒロの顔を平手打ちして、怒鳴っていたんだ――。



お読みいただきありがとうございました。

瑠唯君の過去編は、一応次回で終わる予定です。

大和君がヒロさんの顔を平手打ちした理由とは……?


この作品がお気に召しましたら、いいねや★、ブックマークをつけていただけると嬉しいです!

感想もお待ちしております!

それでは、次回もまたよろしくお願いします(→ω←)

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[良い点] 最新26話まで拝読しました。おもしろかったです! 変わっていこうとするところを応援したくなって、 裏で動いている計画にハラハラしています。 お姉ちゃん、警察、担任の先生…… 周りを取り…
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