25話 不択手段な後輩
前回(24話)と同日のお話ですが、時制は今回の方が少し前です。紛らわしくて申し訳ありません。ご了承ください。
生徒会執行部が終わり、御堂や他のヤツら、ナマハゲが部室を後にする中、俺と瑠唯、そしてもう一人の部員は教室に残っていた。
備品や机が積まれている生徒会室の後方――それによって廊下側からは死角になっている窓側で、ソイツは俺たちに話しかける。
「――それで、話ってなんですか? 先輩方」
「実は御厨君に聞きたいことがあるんだよね」
「聞きたいこと……ですか」
瑠唯は机の縁に座り、にこやかな笑みを浮かべる。
対して、瑠唯の言葉を聞いたその人物――御厨海斗は訝しげに目を細めた。眉が見えないほど長く伸びたその前髪が、四角い黒縁メガネにかかっている。
「そう。早速聞きたいんだけど、あの不良のことどう思ってる?」
「不良……あぁ、この前入部してきた人ですか。別になんとも思ってないですけど」
「んー……それじゃあ質問を変えるね。あの不良を――御堂大和を生徒会執行部から追い出したいと思う?」
瑠唯がそんな質問を繰り出した瞬間、御厨はさらに眉間に皺を寄せた。
「王子先輩、何が言いたいんですか」
「簡単な話だよ」
王子先輩と呼ばれた俺の親友――王子瑠唯はそう前置きすると、その言葉を紡いだ。
「御厨君、キミに、あの不良を追い出す計画を手伝ってほしいんだ」
「……っ!」
笑顔で誘おうとする瑠唯の言葉に、御厨は一瞬目を見開いたが、すぐにまた表情を戻した。
「……どうして僕なんですか?」
「だってキミ、この前あの不良が入部の挨拶をした時、一切拍手をしなかったでしょ? だから、多分だけどあの不良の入部を快く思っていないんだろうなぁって思って」
「……そういうことですか」
――そうだったのか。全く知らなかった。
あの時、教室の右側の席に座っていた順番は、右から俺――勝烏、瑠唯、一つ空けて御厨だった。間に瑠唯がいた上に、俺は右斜め前方向で自己紹介をする御堂を見ていたため、俺からは御厨の様子が一切分からなかったのだ。
一応俺は周りに合わせて拍手をしたし、瑠唯も拍手自体はしていたが……御厨はそうではなかったらしい。
疑問に思った俺は、御厨に尋ねる。
「因みに、なんで拍手をしなかったんだ?」
「…………信用できなかったんですよ」
ポツリと御厨は呟く。
「僕自身、誰が入部して来ようが、誰が退部してしまおうが、それはどうでもいいと思っています。……しかし、それは僕の邪魔をしなければ、の話です。そもそも、僕がこの執行部に入部した理由は、内申点を少しでも良くするため。そのためであれば僕はなんでもします。だから、邪魔になりそうな人――言わば生徒会執行部に迷惑をかけそうな人が現れれば受け入れるつもりはないですし、それを除くためなら手段は問わないつもりです」
「つまり、内申点のためなら何でもする……ってことだね?」
「……まぁ、そういうことになります」
瑠唯の確認に、御厨は首肯した。
やはり、御厨は御堂のことを快く思っていないらしい。
一方、御厨の言葉に何を思ったのだろうか、瑠唯は一瞬ニィッと不敵な笑みを浮かべたが、すぐにその表情を戻して。
「うんうん、やっぱり御厨君とは気が合いそうだね。僕も人がいる手前、一応拍手をしていたけど、受け入れるつもりは毛頭ないんだ。……それで、どう? やっぱり協力しない?」
改めて計画に加担するか尋ねた。
「俺も、御厨に協力してほしい。お前なら口も固いだろ? お前のことを信用しているんだ。だから、頼むよ」
俺もまた瑠唯の言葉を後押しする。
御厨の答えは――。
「……分かりました。協力しますよ、小坂井先輩、王子先輩」
まさに、俺たちが求めていた返事だった。
「御厨君ならそう言ってくれると思っていたよ。ありがとうね」
「いえ。……それで先輩方、僕は何をしたらいいんですか?」
「あぁ、それについてだけど、キミには情報収集をしてもらいたいと考えているんだ」
「情報収集……ですか」
「そう。謂わば偵察だね。どんな情報でもいいよ、御堂を陥れられそうなことなら何でもね」
瑠唯はそう説明すると、今度は人差し指を上にピンと立てて。
「あぁそれと、勿論だけど、情報を集める上では御堂らにバレないようにね。生徒会メンバーにもだよ? あくまでも俺たち三人での計画だから」
と、指をくるくると回しながら御厨に釘を刺した。
御厨も「はい、分かりました」と頷く。これで後輩部員の御厨海斗をこちら側に引き込むことができた。
――これで本格的に計画が始まるな。
俺は瑠唯の方に視線を送る。瑠唯も俺の視線に気づくと、笑みを浮かべたまま軽く頷いた。
すると、新たに仲間入りした御厨が口を開いた。
「それなら早速ですが、一つ、情報があります」
その言葉に、俺も瑠唯も眉毛をピクリと動かす。
「へぇ、どんなの?」
瑠唯が興味津々そうに――されど口調はそのままに尋ねると、御厨は衝撃の事実を口にした。
「あの人、次の期末試験で全教科85点以上を取らないと、執行部を強制退部させられるらしいです」
「……へぇ〜? 因みにその情報はどこから?」
「一昨日の放課後、僕が図書委員の仕事でカウンター当番をしていた時、あの人が浦上先輩方に話していたのを見ました。その後そのまま勉強会もしていたので、恐らく間違いないかと」
――そうだったのか。
そんな条件が御堂に科されていたとは知らなかった。事前に瑠唯からも聞かされていない情報だ。もしかしたら瑠唯が教えてくれなかった可能性もあるが、瑠唯も知らなかった情報かもしれない。
初耳かつ有益そうな情報に、俺の心臓は高鳴る。
ただ、もしそうだとしたら――。
と、俺が考えていると瑠唯が口を開いた。
「……ふふっ、それはいい事を聞いたよ。ありがとう! 御厨君を誘ってホントに良かったよ!」
瑠唯は御厨の右手を両手で握り、ブンブンと腕を上下に振った。その顔は心から喜んでいるように見えた。
「……いえ、それほどでもないです」
王子先輩からのお褒めに、感情をあまり表に出さないはずの御厨は、満更でもなさそうな表情をしていた。
★―★―★
あれから御厨と連絡先を交換し、御厨は先に教室を去っていった。日が少しずつ長くなっているとはいえ、それでも夕陽はかなり傾いてきており、生徒会室には西陽が差し込んでいた。
「御厨の話を聞いて思ったんだけどさ、全教科85点以上っていう条件を科されているんなら、俺たちが何かをしなくても御堂は勝手に自滅するんじゃねぇのか?」
二人だけとなった生徒会室。俺はそのもう一人である瑠唯に問うた。
「まぁその可能性が高そうだよね」
「だろ? それなら別に――」
俺がそう言いかけた直後だった。
突然瑠唯は俺を壁に押し付け、所謂「壁ドン」の体勢になったのだ。そして普段の様子から一変、眉間に皺を寄せて言い放った。
「いいか勝烏? 前にも言ったけど、俺は自分の手で御堂を潰してやりたいんだ。それがたとえ、自滅する可能性が高かったとしても、だ。完全じゃなくてもいい。少しでも御堂を潰した要因になりたいんだよ、俺は」
「……っ」
俺の目を真っ直ぐに捉え、捲し立てるように――それでもいつもの調子で言葉を並べる瑠唯に、俺は僅かに後退ろうとした。後ろが壁だという事も忘れて――だ。
怖いのだ。この状態の瑠唯が。
だが、そんな恐怖心に支配されそうになりつつも、俺はずっと聞きたかったことを瑠唯に尋ねた。
「なぁ瑠唯……前から思っていたんだが、何がそこまでお前を御堂潰しに執着させるんだ……?」
「……聞きたい?」
ゴクリと生唾を呑み込む。
「……あぁ」
一体、どんな理由があるのだろうか?
瑠唯は俺から離れると、また机の縁に腰掛け、窓からの夕陽を眺めつつポツリと呟くように語り始めた――。
お読みいただきありがとうございました。
因みに、御厨君が拍手をしなかったくだりと席順についての話は19話に、御厨君が図書室で大和君たちの話を聞いていた話は21話にあります。ご参考までに。
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それでは、次回もまたよろしくお願いします(→ω←)




