23話 最初の校外活動
初めての勉強会から2日経った。今日は部活動があるため、俺たちは生徒会室に集まっていた。
現在の時刻は15時55分。部活動の開始までまだ15分の余裕がある。
だが、そんな時間さえも俺は勉強に費やしていた――。
「それじゃあ次の問題ね。平安時代中期、自分の娘を天皇の妃にして、そこから生まれた子を次の天皇にし、自身は天皇の外祖父として権力を握った人物はだーれだ?」
俺の左隣に座る難波は、教科書を見ながらそんな問題を出してくる。
「簡単だな」
「へぇ、それじゃあ答えを言ってみて」
こんなもの、小学校でも習う人物なのだ。分からないワケがない。答えはもちろん――。
「藤原信長だろ」
「はい残念」
嘘だろ? ずっと藤原信長だと思っていたのに。
「……っ、なら誰なんだよ」
「藤原道長だよ。織田信長と混ざってない?」
難波は苦笑いを浮かべる。
確かに言われてみれば、織田信長の方がしっくりくる気がしなくもない。
「……因みにだが、俺はここまで何問正解してる?」
「10問中10問不正解だよ」
「致命的じゃねぇか……」
期末試験は来月の6日から10日。まだ三週間ほどの猶予があるとはいえ、ここから挽回できる気が全くしない。
今まで勉強してこなかったツケが、ここにきて大きく響いてくるとは……。
そう俺が肩を落としていると、難波が再び話しかけてきた。
「まぁまぁそう落ち込まないで。ほら、反対側を見てみなよ」
「あぁ……?」
難波が指差す先――俺の右側に振り向くと、浦上と小牧が何かしていた。
「それでは次の問題です。1517年、ドイツで宗教改革を始めて、後にプロテスタントを成立させた人物は誰でしょうか?」
「ふふっ。先輩、さすがにそれは分かりますよ! だって、中学時代にも習っている人物なんですから」
浦上の問いに対し、小牧は自信満々に意気込んでいる。
けれど、なんか既視感があるような気が……。
「はい、それでは答えをどうぞ」
「マーガリン!」
「あぁ惜しいっ! 正解はルターです!」
「あぁー! それだぁ!」
何がどう惜しかったんだ? 俺より酷い気がするのだが……。
俺が理解に苦しんでいると、難波が解説をしてくれた。
「多分だけど、ルター……バター……マーガリンって事じゃないかな?」
「連想ゲームかよ」
絶妙に分かりそうで分からない。俺でもそんな間違え方はしないぞ……多分。
いや、そもそも問題はそこではないのだ。
「……というか、この二人がなんだって言うんだ? 俺たちと同じように問題を出し合っているだけみたいだが」
そう、難波が見てみろと言うから浦上と小牧のやり取りを見ていたワケだが、難波が俺に何を伝えたかったのかが分からないのだ。
俺は難波を疑うように見つめる。すると難波は。
「もう少し見てみなよ」
と、手のひらを上向きにして軽く上下に動かした。
俺は頭に疑問符を浮かべながらも、言われた通りに二人の様子を再び見つめてみた。
「せっかく覚えたのにーっ! うぅ、悔しいです……」
「大丈夫ですよ陽奈ちゃん。まだ時間はありますから、ゆっくり頑張りましょう?」
「はいっ、先輩!」
浦上が落ち込む小牧の肩をポンっと叩くと、小牧は拳を握りしめて振った。
その様子を見てなんとなく俺は察した。
「……要は諦めんなってことか」
「そういうこと」
俺が確認すると、難波は微笑みながら首肯した。
直接言ってくれれば良いものを、わざわざ周りくどいことをしやがって。
「……まぁ分かったよ。ナマハゲを見返すためだもんな。何とか頑張るわ」
「うん。けど、無理はしないようにね」
「多少は無理しないとヤバそうだけどな」
そんなやり取りを交わしつつ、俺は再び難波に問題を出してもらうのだった。
★―★―★
それから問題を出してもらっているウチに、部活動が始まる時間となった。
高坂を始めとした生徒たちが揃い、ナマハゲも入室済みだ。
「さて、今日は大切な話がある。まずはプリントを配るからそれに目を通してもらいたい」
ナマハゲはそう切り出すと、プリントを回し始める。
やがて難波からプリントを受け取り、浦上へ次を渡し終えると、俺はそこに書かれた文字を見つめた。
そこに書かれていたのは。
「募金活動……」
そう、駅前で募金活動のボランティアをするというものだった。これが入部して最初の正式な校外活動となる。
だがここで俺は、ある一つの疑問が浮かぶ。
――お金集めの活動って、善行貯金は貯まるのか?
以前、商店街の清掃活動に参加した時は、"助けた人から直接お礼を貰ったら貯金箱にお金が貯まるのか"という検証を兼ねて参加していた。
しかし、偶然ひったくり犯を捕まえるという善行を積んでしまったため、結果は不明に終わってしまっていた。
今回は以前と検証内容が違うが、前のようにモヤモヤする結果に終わりたくはない。
俺が考えを巡らせていると、ナマハゲが口を開く。
「全員に行き渡ったな。それじゃあ説明を始める。2週間後の6月27日、土曜日、明星駅前で募金活動のボランティアをすることになった。ついては極力みなに参加してもらいたい。内容については、現時点では駅の北口と南口の二班に分かれてもらい、活動してもらうつもりだ。振り分けについては、参加希望者を募った後にまた決めようと思う。期末試験の2週間前ではあるが、よほどの予定がない限りは参加するように」
明星駅というと、俺の家から徒歩で15分ほどの距離にある、この地域ではそこそこの大きさの駅である。
姉さんもそこから大学に通っており、容易に参加できる距離なのだ。
それに、たとえ検証が失敗に終わったとしても――貯金が貯まらなかったとしても、それは後学のための成果になる。
故に。
「ねぇ大和君、もちろん参加するよね?」
「あぁ、行かない理由はねぇよ」
「ふふっ、意外と張り切ってるね」
「まぁな」
小声で尋ねてくる難波の質問に対して即答してしまうほど、俺はその日を楽しみにしていた。
昔のままの俺だったら面倒くさいと思って参加しなかっただろうし、そもそも学校にすら行かなかったから活動自体も知らないままだっただろう。
そう考えると、本当に俺は変わってしまったようだ。
――今の俺を見たら、母さんは戻ってきてくれるのかな?
そんな期待を抱いてみるも、それはただの願望に過ぎず、叶う確証はどこにもない。
けれど、その願望が叶えられるように、これからも努めていくべきなのだろう。
過去の過ちを、もう二度と犯さないように――。
お読みいただきありがとうございました。
さて、今回の話をもって編タイトルは「募金活動・期末試験編」になります。やっと"???"が開きましたね。
多分ですが、この編が話数が多くなると思います。
それと大事なお知らせなのですが、次週の7月7日(日)から8月4日(日)までの約1か月間、不定期更新に切り替えさせていただきます。理由といたしましては、私生活が忙しくなり、そちらを優先させたいためです。
読者の皆様には申し訳ありませんが、ご了承いただけると幸いです。
それでは、次回もまたよろしくお願いします(→ω←)




