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善行貯金箱  作者: 案内なび
募金活動・期末試験編
21/42

21話 新たな協力者

「――というワケで、勉強を教えてもらおうとしただけだ。だからお前らが想像するような告白はしてねぇよ」


 図書室の端にある四人掛けのテーブル席。その一つに俺、浦上、小牧、難波は時計回りで座り、俺は対面する二人に事情を説明した。


 幸いにも俺たちとカウンターにいる図書委員くらいしか人はおらず、退部の件が他の誰かに聞かれる心配は少なかった。


「ははっ、なんだそうだったんだね。噂とはいえ、勘違いして悪かったよ」

「陽奈は浦上先輩が受け入れるなら応援するつもりだったんですけどねー」


 難波と小牧はいささか残念そうな口振りで話す。

 一方の浦上はすっかり肩を縮めてしまっている。きっと変な噂を立てられて、参ってしまっているのだろう。


「全く、どこのどいつだよ。変な噂を立てやがって……」


 頬杖を突きつつそんなボヤキを口にするが、きっと噂の原因は、俺が朝から浦上のクラスまで行って呼び付けたこと。

 それを見た誰かしらが、勘違いして――或いは面白がって意図的に言いふらしたのだろう。どちらにせよ、たまったものではない。


「……はぁ、ったく。すまねぇな浦上、妙なことに巻き込んじまって」


 元はといえば、己の勉強不足が招いた結果だ。だからこそ俺は、自分の尻拭いに巻き込んでしまった浦上に対して、頭を下げた。――の、だが。


「……」

「……浦上さん?」

「……」

「……浦上先輩?」

「……」


 何故か浦上から返事がなかった。

 不思議に思って顔を上げると、何故か浦上は顔を赤らめて俯いていた。


「おい、大丈夫か?」


 俺は指先で軽く机を叩き、浦上の意識を確認しようとした。――その時。


「え!? あっ、はい! だだっ、大丈夫ですよ!」


 浦上は驚いたように、慌ててこちらに振り向いた。

 急に反応をしたものだから、俺も思わず肩をピクリと震わせる。


「……本当か? 体調悪いんだったら、無理に付き合ってくれなくてもいいんだぞ?」


「本当に大丈夫ですよ! ただ、考え事をしていただけですので……」


「……ならいいんだが」


 若干何かを隠しているようにも見受けられるが、本人が大丈夫というのであれば信じることにしよう。


「と、とにかく、誤解も解けたみたいですし、これから始めましょうか!」


「ふふっ、せっかくだし僕も協力するよ。こう見えても成績は上の方だからね、頼ってくれればいいよ」


「あぁ、二人とも頼んだ」


 そうして、予定より人数が増えたものの、勉強会が始まろうとしていた。――と、その時。


「えーっと、陽奈は帰りますね」


 不意に小牧は席を立ち、鞄を持ち上げようとした。

 隣にいた難波は、すかさず小牧に声を掛ける。


「小牧さん、遠慮しなくていいんだよ?」

「その、何て言いますか……みんなで不良先輩を助けようとしているのに、陽奈だけは何もできなさそうなので……。それに、陽奈は勉強が苦手というか何というか……」


 そう言って小牧は、両手の人差し指の先同士をくっつけたり離したりする。なるほど、どうやら小牧は周りの雰囲気に合わないと感じ、自ら身を引こうとしたらしい。


 確かにこのメンツの中だと小牧は唯一の一年生であるし、二年生である俺の勉強を教えることは、普通なら無理であろう。――そう、普通ならだ。

 しかし、そうは思わなかった俺は、小牧に目を向けて。


「まぁ別に強制するつもりはないし、帰ってくれても構わない。元々浦上だけに頼るつもりだった所に、たまたま二人を巻き込んでしまっただけだからな。……ただ、俺は勉強の中でも基礎がまだできてないんだ。そこに現役で基礎を勉強しているお前がいてくれれば、俺としては心強いものがある。だから、お前さえ良ければなんだが、俺の勉強に付き合ってくれたりしねぇか? もちろん強制じゃねぇから、断ってくれてもいいんだが……」


 そう言って俺は、自信なさそうにする小牧に頼んだ。

 もちろん小牧を少しでも立ててやりたいという気持ちもあるが、基礎を現役で勉強しているヤツがいるというのは、俺としても頼りやすいのだ。

 だからこそ小牧には承諾してもらいたい。


「……で、でも、陽奈も勉強はできないですよ。中間試験でも平均点以下の点数ばかりでしたし……」


 小牧はなおも自信無さげにする。何とか励ましてやりたいが、どうしたら……と思っていた時だ。


 突如浦上が立ち上がって、小牧の方に回っていった。

 俺と難波はその様子をジッと見守る。すると。


「大丈夫だよ陽奈ちゃん。私が陽奈ちゃんの勉強も見てあげるから。だから、一緒に頑張ろ! ねっ!」


 浦上は両手で小牧の手を取り、優しく微笑んだ。


「ちょちょっ、え!? ふぁ、え!?」


 小牧は分かりやすく動転している。そして。


「浦上先輩にそんなこと言われたら……こ、断れないですよ……」

 

 小牧は浦上から目を逸らすように答えた。

 そういえば小牧は浦上を()()として崇めていた。そんな推しから誘われたら、確かに断れないだろうな。


 兎にも角にも、多少気まずい雰囲気になりかけていたのを、浦上は優しく払ってくれた。そういった面でも浦上の世話になるとは、本当に浦上には頭が上がらないな。


 やがて小牧は再び席に着いてくれた。


「……よし、それじゃあみんな、今日からよろしく頼む」


 俺は浦上、難波、そして小牧に、改めて頭を下げる。


「陽奈も、よろしくお願いします!」

「はい。こちらこそよろしくお願いしますね!」

「僕もできるだけサポートするよ、よろしくね」


 他の三人も和やかに言葉を交わした。

 当初とは違った形にはなったが、むしろ人が増えたことで心強さも増した。着実に事は進んでいる。

 ふと窓をみると、まだまだ夕陽は沈みそうにない。


 見てろよナマハゲ? 俺は絶対に退部しねぇからな。


 内心でそう意気込むと、俺は鞄から教科書とノートを取り出し、ページをめくり始めた――。

お読みいただきありがとうございました。

これで頼れる人が一気に増えた大和君。この調子で期末試験も乗り越えて欲しいですね。そして陽奈ちゃんも頑張れ……!というかみんな頑張って欲しい……!(笑)


この作品がお気に召しましたら、いいねや★、ブックマークをつけていただけると嬉しいです!

感想もお待ちしております!

それでは、次回もまたよろしくお願いします(→ω←)

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