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善行貯金箱  作者: 案内なび
募金活動・期末試験編
20/42

20話 勘違い

 初めての部活動を終えた俺は、無事に帰宅した。

 今日一日だけでも色々あったので、中々に草臥(くたび)れてしまった。


 そのため、いつも通りリビングのソファでゆっくりと休息を取る……はずだったのだが。


「……で、どうだったんだね? 大和君」


 帰ってくるなり、目の前に座っているコイツに何故か尋問されている。

 ソイツは親指と人差し指でサングラスをクイっと上げた。


 明らかにいつもと違う雰囲気を醸し出しているが、そう簡単に飲み込まれるような俺ではない。

 何故なら。


「……いや、何やってんだよ姉さん」


 そう、姉さんの()()()()()()()が発動しているだけだからだ。


「いやぁ、こういうの一度やってみたくって」


 そう言って姉さんはサングラスをソファにポイっと投げ捨てる。

 雑だな、おい。


「はいはい。それは楽しそうで何より」

「何か冷たくない?」

「いつも通りだよ」

「そうなの?」

「そうだよ」


 以前の陛下ごっこと言い、今回の刑事(?)ごっこと言い、我が姉ながらいささか幼稚ではないかと思ってしまう。

 本人が好きでやっているのなら、別に口出しはしないが。


「で、部活の感想だったか?」

「そうそう、楽しみにしてたんだからね〜」


 姉さんは体をウキウキワクワクさせている。

 そんな姉さんに対して()()()()を伝えるのは少々心苦し気もするが、到底俺だけでどうにかなる問題ではないため、伝えなければなるまい。


「いや、それがだな……」


 俺は意を決して、その言葉を口にした。


「入部したのはしたんだが、次の期末試験で全教科85点以上取らないと強制退部って条件が科せられたんだ」


「……え、マジ?」


「あぁ、マジだ」


 刹那、リビングに静寂が訪れる。

 ある程度はこうなると予想していたが、それでもやはり気まずいのなんの。


「えーっと、大和って勉強は」

「からっきしだよ」

「ですよねー、あはは……」


 姉さんも俺の学力が如何ほどかを知っているため、笑うしかないようだ。

 そういうワケなので。


「……てことで姉さん、俺に勉強を教えてくれねぇか?」


 俺は姉さんにそう依頼した。


 こんな(?)姉だが、一応熾烈な受験戦争を勝ち抜いて大学に受かった人物である。

 出身高校は俺とは違うが、それでも基礎的な教養科目くらいは勉強してきたであろう。


 そう思って姉さんに頼んでみたのだが、その返事はというと。


「ムリムリ、カタツムリだよっ! だって、最後に高校の勉強したのって2年前だよ!? それに元々勉強が得意なワケじゃないから、教えられてもちょっとだけだよ?」


 あまり良いものではなかった。だが。


「そのちょっとでいいんだ。俺はまず基礎が出来ていない。たがらその基礎を教えてくれるだけでも……頼む」


 俺は机の上に両手と頭をつける。


「や、やまと!? ちょっ、顔上げてよ!?」


「今後の活動が懸かってるんだ……!」


「そ、そりゃあ私だって弟のために何とかしてあげたいけど……勉強じゃあ私は力不足だよぉ〜」


 そう嘆いて姉さんは視線を落としてしまう。


 やはり自力でなんとかするしかないのだろうか……?

 と、考えていた時だった。


「あっ、それなら凪沙ちゃんに頼めばいいんじゃない?」


 姉さんはポンっと手を叩いて、そのような案を口にした。


「浦上か……」


 確かに言われてみれば、最後に勉強して数年経つ人よりも現役の同級生の方が、その教科に対する記憶力や理解度は圧倒的に上だろう。


「……分かった。ありがとな姉さん。また浦上に会ったら相談してみるわ」


「うん、頑張ってね。一応私も教えられそうなところは頑張って教えるから」


「あぁ、助かるよ」


 さて、これで何とか点数アップへの道は確保できそうだ。何より浦上は真面目なヤツだろうし、多分成績もある程度は上の方だろう。


 それに、いざとなれば隣の席の難波もいる。アイツが勉強できるのかは定かではないが、ペアワークが好きなヤツだし、多分大丈夫だろう(?)。


 その上姉さんも力になってくれる。

 多少無理をしてでも勉強しないといけないな。


 そんな思いを胸に、今日という一日は幕を閉じたのだった。


★―★―★


 その日の放課後、私は御堂君に呼び出されて、屋上に繋がる階段に向かっていました。


 今朝、御堂君は突然私の教室に入って来たかと思えば、「浦上、放課後話がある」と言い、その場所へ来るように指示したのです。


 朝早い時間だったとはいえ、クラスメイトもある程度は居る中だったので、御堂君が教室を去った後はちょっとした騒ぎになりました。


 それにしても、私に話って……?


 屋上前の階段という、ひと気のない場所にまで呼び出して話したいこと。


「……」

「……」

「……っ!?」


 その瞬間、私の中で一つの考えが浮かび上がってしまった。

 

 まさか、まさか!?

 いや、でもまだ確実にそうと決まったワケではないし。

 でもそれ以外に秘密で伝えたいことって……

 ううん、ダメです! そんな妄想、御堂君に失礼ですよ!

 ……でも、もしかすると。


 いろんな考えが私の脳内を駆け巡る。

 良くない妄想なのは分かっている。

 でも、それを期待してしまう自分もどこかにいる。


 ――兎にも角にも、まずは御堂君の話を聞いてみないと。


 そう思い、階段に足を掛けた時でした。




「来てくれたか、浦上」


 階段の踊り場から、その人は声を掛けてきました。


「もちろんですよ御堂君。お話ってなんですか?」


 私はあくまで普段通りを装いつつ、踊り場まで歩みを進める。


「あぁ、実はお前に伝えたいことがあって……」

「伝えたいこと、ですか……?」

「あぁ」


 そう口にした御堂君は、一瞬私から目線を逸らす。


 ――まさか、本当に……? 待って! ま、まだ心の準備が……!


 しかし、そんな内心で慌てる私のことはつゆ知らず。

 やがて御堂君は意を決したように、一つ息を溢して、その言葉を口にしたのです……!




「浦上、俺に勉強を教えてくれねぇか?」


「はいもちろんです! ……えっ?」


「えっ?」


★―★―★


「――というワケで、85点以上取らねぇと強制退部になっちまうんだ」


「……なるほど、そういうことだったんですね」


 俺は踊り場から2段上の階段に腰掛けて、事の成り行きを説明した。浦上も隣で頷きながら応える。

 後ろ扉の窓から西陽が流れ込んでいるため、俺たちの影が踊り場の壁まで届きそうだ。


「まぁな。それにしても、急にお前が『えっ?』とか言うから、てっきり断られるのかと思ったぞ……」


「あはは、ごめんなさい。少し勘違いをしていたみたいで」


「何と勘違いしたんだよ……」


「えっ? いや、それはぁ……」


 浦上は俺から目線を逸らして、その目を泳がせる。

 本当に何と勘違いしたのだろうか……?


「んまぁいいさ。とにかくこれからよろしく頼むな、浦上」


 そう口にして俺は階段から立ち上がる。

 俺の影が完全に踊り場の壁まで届いた。


「……はいっ!」


 浦上もまた階段から立ち上がった。


「それでは早速、図書室に行きますか?」

「あぁ、よろしく頼む。どうせ今日は部活も休みだしな、とことんシバいてくれ」

「あはは、無理しない程度に頑張りましょう」


 そうして俺たちは踊り場から下の階へと続く階段を降り、図書室へと向かうのだった。


 ……はずだったのだが。




「あっ、いたいた! おーい、大和くーん」

「先輩! 探したんですよ!?」


 図書室に向かう途中の渡り廊下、正面の方から難波と小牧に呼び止められた。

 身長差が違いすぎる凸凹コンビの二人は、小走りにこちらへ近づいてくる。


 俺が知らないだけかもしれないが、少し珍しい組み合わせな気もする。


「なんだお前ら?」

「二人ともどうしたんですか?」


「いや、少し二人聞きたいことがあってね?」


「聞きたいこと?」


 何だろうか? 部活絡みのことだろうか? とにかく聞いてみないと分からないな。


「一体何を聞きたいんだ?」


 俺が二人に問うと、二人は斜めに視線を交わらせ、ヒソヒソと何かを話し合う。

 やがて小牧の方が口を開いた。


「その、不良先輩に聞きたいんですが」

「あぁ、なんだ?」


 すると、小牧は少し口をもごもごとさせたかと思えば、耳を疑うような質問を繰り出した。




「……不良先輩、浦上先輩に告白したってマジですか!?」




「……は?」

お読みいただきありがとうございました。

今回はもうアレです。ベタなラブコメみたいな回です。

けれどもちゃんと物語の展開に絡ませつつ、みたいな?

そういう感じの回です。


前回までの入部編で、大和君の成長やら様々な展開を(多分)濃密に描いたので、息抜きとしてこんな回があってもいいでしょう。

まぁ一応、今回が新編の始まりではあるんですが……。


それでは、次回もまたよろしくお願いします(→ω←)

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