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善行貯金箱  作者: 案内なび
入部編
19/42

19話 改む決意、新たな決意

「そう言えばなんだが……」


 生徒会室の椅子に腰掛けながら、俺は隣に座る難波に問いかける。


 現在、この部屋には未だ俺と難波と高坂しかいない。

 ()()()()に配置された机に沿って俺たちは座っており、教室正面から見て右側――俺たちから見て左側に座る高坂は、脚を組みつつ何かの本を読んでいる。


 ブックカバーをしているため、何を読んでいるのかまでは分からないが、高坂が読書家なのは意外だ。


「どうしたんだい?」


「生徒会執行部ってことは、部活なんだよな?」


「あぁ、そうなるね」


「だがそうなると、選挙で選ばれる方の()()()のヤツらってどこに所属してるんだ? 俺みたいに選挙をせずに入ったヤツとはまた違うのか?」


「そうだね……形としては、生徒会を補佐する形で生徒会執行部が存在している感じかな。まぁでも実際は上下関係とかはなく、みんな対等な感じだね」


「ふーん。なら、ソイツらもこれからココに来んのか?」

「普段はココに集まるんだけどね。生憎と今日は、生徒会は生徒会で単独の用事があるらしいんだ」


 難波は残念だと言わんばかりに苦笑する。


 予想はしていたが、同じ生徒会の名を持つ以上は、やはり互いの関係が深いらしい。だが今日みたいに、それぞれで分かれて動くこともあるという。

 まだまだ俺の知らないことは沢山ありそうだ。


 と、そんな感じで俺と難波が雑談をしていた時だった。

 ガラガラっと部室の扉が開いたかと思うと。


「はぁ……ま、間に合った……!」

「先輩、ギリギリでしたね……」


 浦上と小牧が息を切らして教室に入ってきた。

 すると。


「おっ、不良先輩がいるじゃないですか! っていうことは……?」


 小牧は呼吸を整えると、ニヤニヤと笑みを浮かべてこちらに近づいてきた。


「何ニヤついてんだお前。あぁそうだよ、お察しの通りだよ」


「へぇ……らしいですよ、先輩。良かったですね!」

 

「えっ!? はぁ。うん、そうだね。はぁ」


 浦上はまだ呼吸を整えている最中のようだが、急に小牧に話題を振られたためか、慌てて応答した。

 小牧はとっくに普通に話せるようになっているため、もしかしたら浦上は体力が少ないのかもしれない。

 いや、小牧の体力がヤバいだけなのか?


 というか。


「ってかお前ら、何をそんなに急いでたんだ? まだ集合時間まで15分はあるぞ?」


 俺は教室の壁掛け時計を親指でクイっと指す。

 集合時間は16時10分だから、まだまだ焦るような時間でもないはずなのだ。


「え? でも、陽奈たちが見た時は16時8分くらいで……ですよね、先輩?」

「うん、そうなんだけど……」


 どういうことだ? どっちかの時計がズレているのか?

 俺が疑問に思っていると、難波が口を開いた。


「因みにだけど、どこの時計を見たんだい?」


「えぇっと、確か職員室に提出物を届けに行ったから……職員室前の廊下の時計ですね」


「あぁ、やっぱりそこなんだね。あそこの時計、10分近くズレてるから気をつけた方がいいよ」


「え?」

「へ?」


 あぁー……ドンマイ浦上、小牧。俺も一応気をつけよ。


★―★―★


 それから()()()()()()()になった。


 続々と他の部員が集まり、気がつけば俺を含めた10人の生徒がコの字形に座っている。


 それにしても他の部員たちは皆、部室に入るや否や目を真ん丸にしたり、こちらに睨みを利かせてきたものだ。

 何なら今もヒソヒソとこちらを見つめながら話しているヤツらもいる。


 本人を目の前にしてそんなことをするとは、何とも肝が座ったヤツらだと思う。

 まぁでも、こうなることは容易に想像できたので、別に構わないのだが。


 そんな何とも言えない雰囲気が漂っていたが、ガラガラっと教室の扉が開いた。


 現れたのはやはりとも言うべきか、右手に竹刀を引っ提げ、左手に書類を抱えた男――ナマハゲだ。


 ナマハゲは室内に入ると、ロの字形の席のうち、誰も座っていない最前列のど真ん中に着席し、言葉を発した。


「よし、揃っているな。それではこれから部活を始める」


 その掛け声に周りのヤツらは。


「よろしくお願いします」


 と、一斉に応える。

 俺も少し出遅れて「よろしくお願いします」と合わせた。

 そうして、俺の人生初めての部活動が幕を開けた。


「さて、今日は最初に新入部員の紹介をしたいと思う。御堂、こちらに来なさい」


「あぁはい」


 俺はナマハゲの手招きに応じて席を立ち、前の方に移動する。そしてナマハゲの右横に立った。

 いざ人前に立ってみると、視線が一挙に向けられる所為か、少しばかり身構えてしまう。

 ただ、こういう緊張感は初めて味わうので、どこか新鮮な感じもした。


「それじゃあ軽く自己紹介をしてくれ」


 そしていよいよ、ナマハゲからバトンを渡された。

 全員の視線が俺に釘付けとなる。

 俺は一つ息を吐くと、その言葉を紡いだ。


「あぁ、初めまして。今日から生徒会執行部に入部しました、2年1組の御堂大和です。これからよろしくお願いします」


 言葉を言い終えると同時に、俺は頭を下げた。

 その瞬間だった。


「よろしくな、大和!」


 難波の声と拍手が聞こえてきたかと思えば、一つ、また一つと拍手の音が重なり、それは瞬く間に教室中から聞こえてきたのだ。


 俺はその音を聞いて、思わず安堵してしまう。


 中には拍手をしていないヤツもいるし、きっと周りに合わせて拍手しているだけで、心からは受け入れてくれていないヤツもいるだろう。

 だがそれでも……たとえ仮初(かりそめ)の拍手でも、俺は嬉しかったのだ。


 きっと心のどこかで、拒否されるのを恐れていたのかもしれない。だから。


「これからよろしく頼むぞ。それと、分からないことがあれば私か部員に聞きなさい」

「はい、分かりました」


 こんな俺でも受け入れてくれるヤツの為にも頑張らねぇと。

 改めて俺は、これから善行に励むことを心に誓うのだった。


★―★―★


「なぁ瑠唯(るい)、何で御堂(アイツ)が今更入ってきたと思う?」

 

 部活終わり、俺は自転車に乗って信号待ちをしながら、同じく隣で自転車に乗っている親友の瑠唯に話しかける。

 ようやく太陽が地平線に沈み始めたにも関わらず、まだまだ日差しが強めだが、風のお陰もあって幾分かはマシだ。


「なんでだろうね。彼自身、何か考えでもあるのかも?」

「考えねぇ……アレか? 『少しは真面目に生きなさい!』って母親にでも叱られたか?(笑)」

「ふふっ、そうだとしたらすごく滑稽だね。だって、あれだけ睨みを利かせていた猛獣が、家では母親に抗えない子犬なんだとしたら」

「ぶふっ! お前、笑わせんなよ! ヤバいっ、想像するだけで腹痛いわー!」

 

 俺は思わず吹き出して大声で笑う。


「あははっ、ごめんって!」

 

 釣られて瑠唯も笑い始めた。


 忙しなく通り過ぎていく車の音と俺たちの笑い声が、少しの間、交差点を支配していた。


「……ふぅ笑った笑った。お前、急に変なこと言うなよー」


「いやー、ごめんごめん」


 そう言いつつ、反省の色は微塵も醸し出していなかった。

 すると瑠唯は「ところでさぁ、勝烏(しょう)」と前置きをしたかと思うと、こんなことを口にした。


「この前職員室で面白い話聞いちゃったんだけどさ、聞きたい?」

「そりゃあ勿論。流れからして御堂(アイツ)がらみだよな?」

「そうだね。それじゃあ早速教えてあげる……と言いたいところだけど、その前に一つ質問していいかな?」

「なんだよおまえー、勿体振らずに教えろよー!」

「まぁまぁ落ち着いて」


 瑠唯はそう言うと、凛とした表情で、されど薄らと笑みを浮かべて、その質問を繰り出した。


御堂(アイツ)をさ、退部させたい?」


 その質問にどういう意図があるのか?

 少しばかり疑問に思ったが。


「……あぁ、出来ることなら。だって御堂(アイツ)みたいな不良が同じ部活にいるって、目障りだし嫌だろ?」


 俺は瑠唯に正直に話した。

 同時に、反対側の歩行者信号が点滅し始めた。


「やっぱり? 実を言うと、俺もなんだよね」

「おぉっ、マジで!?」

「だからさ、御堂(アイツ)を退部させようよ」

「その話、乗った!」


 俺が勢いのまま提案に快諾すると、瑠唯は「ありがとう」と微笑み、ペダルに足をかけた。


「それじゃあ教えてあげるね。実は――」


 そうして御堂(アイツ)の裏事情を共有した俺たちは、御堂(アイツ)を退部させる決意を胸に、行動を開始するのだった。

お読みいただきありがとうございました。

これにて入部編は終了です!

いやぁ、思ったより長引いてしまいましたが、無事に大和君が入部できましたね! これから先、大和君及び生徒会執行部のメンバーはどんな動きを見せてくれるのか、私も楽しみです〜♪

そして、物語に登場した怪しげな人物や、いくつかの謎……これらは今後、彼らにどう絡んでくるのでしょうか?

それでは、新編もまたよろしくお願いします(→ω←)

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― 新着の感想 ―
19話まで読ませていただきました。 善行によって貯まる貯金箱、労力に対してお金がめちゃくちゃ貯まるわけでもないようで器用貧乏な異物に感じます。 しかし、大和くんが前を向いて進み出すきっかけになったわけ…
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