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善行貯金箱  作者: 案内なび
入部編
13/42

13話 誘い

 商店街での一件から数日が経った、6月に入り立ての頃だ。この日、高坂由良、浦上凪沙、小牧陽奈、そして俺の4人は本当に警察から感謝状を貰った。

 警察署内の一室で署長から直々に渡されたのだが、若槻さんと同じ警察官と思えないほど雰囲気が違っており、少しだけだが緊張してしまった。


 その署長は、ザ・中高年のおっさんという感じの小太りな体型で、温厚そうな雰囲気を身に纏っていた。だがそれでいて、重厚な威厳と貫禄も備わっていた。

 あれが本物の警察官か……と、感覚的にそう思わせられたものだ。いやまぁ、若槻さんが他の警察官とズレているだけかもしれないけど……。


 やがて式が終わり、家に帰ってからそれを姉さんに見せると。


「あの大和が警察から感謝状を……さすが我が弟だね。偉いよ、大和!」


 と、感心してくれた。姉さんは最初から俺の行動を認めてくれていたが、それでも改めて褒められると少し照れくさかった。


 そして、貰えたのは感謝状だけではない。なんと、豚の貯金箱のお腹に"13210"と記されていたのだ。最後に確認した時から7500円以上増えているから、あの商店街で俺はかなりの善行を積んだことになる。


 世知辛い豚の貯金箱にも認められるようになった、ということなのだろうか?


 ただ、そうした嬉しさがあった反面、少し不満も残った。件の貯金箱についてだ。


 元々、俺が商店街で清掃する目的の一つとして"助けた人から直接お礼を貰ったら貯金箱にお金が貯まるのか"という検証があった。

 だが、引ったくり事件の解決をしてその分の金額が加算されたために、真実は不明という結果に終わってしまったのだ。


 コイツのシステムなのかは知らないが、"何をしてどれくらいの金額が増えたのか"までは記されず、増えた金額の総量しか記されないのである。まあそもそも、ただの豚の貯金箱に金額が表示されるというのが、おかしな話ではあるが。


 そんな感じで、多少は消化不良な面もあったが、商店街での一連の出来事に俺は、味わったことのない満足感を抱いたのだった。


★―★―★


 それからまた数日経った、ある平日の夕方。俺は今日も学校には行かず、いつものように家にいた。

 商店街の喫茶店でアイツらから褒められた時は、「俺の居場所はもしかしたら……」なんて思ったりもしたが、結局のところ学校に行くこと自体に抵抗があったため、あれ以降外でゴミ拾いをすることはあっても、俺が学校に行くことはなかった。


 それ故に、今日も俺はリビングのソファに寝転がりながら惰眠を貪っていた。


 ソファとテーブルを結んだ延長線上にあるテレビでは、天気予報が放送されている。この番組では、17時から始まるニュース番組に切り替わる前に、天気予報のコーナーを番組の締めとして放送しているのだ。

 そのコーナーによれば、どうやら来週あたりには、この地域も梅雨入りする可能性が高いとのことらしい。


 だが、それは俺にとってかなり不都合なことだった。雨が何日も降り続いてしまったら、外で善行を積む機会が大幅に減ってしまうのだ。


「……そうなったら、どうしたもんかねぇ」


 俺は溜め息混じりに呟いて、机に置いていた豚の貯金箱を片手で取る。そして、真っ白に光る天井のLEDライトに当てながら、その腹部に書かれた数字を見つめた。テレビ番組も、17時のニュース番組へと切り替わった――その時だった。


 ――ピンポーン。

 玄関の方からチャイムの電子音が聞こえてきた。


「……誰だ?」


 俺は徐にソファから起き上がり、貯金箱を机に置く。


 姉さんが帰ってきたのだろうか……? いや、それにしては早すぎる。だが、もしかしたら、予定より早く大学の講義が終わったのか、あるいは突然休講にでもなったのかもしれない。それで帰ってみたら、「鍵閉まってて入れないじゃん! やまとー、鍵取り出すの面倒くさいから開けてー!」ということなのだろう。宅配も頼んでいないはずなので、やはり姉さんで間違いなさそうだ。


 流石は俺。おっちょこちょいで横着な姉の性格をよく理解しているな、うん。


 そうして俺は玄関まで歩いて行き、「ドアなら開いてるぞー?」と、俺は玄関の扉を押し開けた。

 そこに居たのは――。


「おっ、出てきましたねー不良先輩!」

「こんな時間にいきなりごめんなさい、御堂君」


 姉さんではなく、制服姿の浦上と小牧だった。

 俺は何事もなかったかのように扉を閉めようとする。


「ちょちょっ、なんで閉めるんですか不良先輩!?」


 だが、小牧が慌てて扉に手を掛け、扉が閉まるのを防いできた。


「いや、なんでって言われても」


「いいんですか不良先輩!? せっかく浦上先輩が来てくれたんですよ。みすみすそのまま帰らせるんですか!?」


「あぁ、それでも構わないが」


「なっ、なんでですか!? 陽奈だったら速攻で家に招き入れますよ!?」


「いや、お前のことは知らねぇし、声がでけぇよ」


「くぅぅ……どうやらまだ浦上先輩の魅力が伝わりきってなさそうですね……。こうなったら、もう一度陽奈が教えあげましょう!」


「それは二度とゴメンだ」


 半開きの扉を挟んで、俺と小牧は互いに言い合う。

 幸いにも周りに人はいないため、俺たちが言い争っている姿は誰にも見られていないわけだが、下手をすれば浦上と小牧は「不良と関わるヤバい奴」と認識されかねない。


 たとえ、それが警察から感謝状を貰っている不良だとしてもだ。周りのヤツから見れば、俺の印象が心の底から変わっているわけではなく、まだまだ俺を認めることはできないと思っているだろう。


 だからこそ俺は扉を閉めて、コイツらとの関係はないように見せたかったというのに。


「……はぁ。わかったよ。何か用があって来たんだろ? 要件を言ってくれ」


 とりあえず俺は諦めることにした。


「良かったですね! 浦上先輩!」


「うん……。ごめんね御堂君、いきなり来たのに」


「……いや、構わねぇよ。こっちこそ何も聞かずに閉め出そうとして悪かったな」


「いえいえ、そんな……」


 浦上は丁寧に応答する。真面目なヤツだ。

 すると、浦上は一度咳払いをして。


「……それでは、本題に入りますね」


 と、改まったような態度で俺の目を見つめた。

 先程までとは違う雰囲気を醸し出す浦上に、俺は思わず身構えてしまう。

 小牧もどこか応援するような眼差しで浦上を見つめている。


 鮮やかな夕陽に照らされている我が家の玄関前。そこを風が一つ通り過ぎると、浦上は一拍を置いて、やがてその言葉を紡いだ。


「御堂君さえ良ければなんですが……私たちの生徒会執行部に入部しませんか?」

お読みいただきありがとうございました。

浦上さんと小牧さんから生徒会執行部に誘われた大和君。彼はいったいどのような決断をくだすのでしょうか?

それでは、次回もまたよろしくお願いします(→ω←)

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