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善行貯金箱  作者: 案内なび
商店街編
11/42

11話 素行不良

 あれから俺たちは、商店街の南半分を担当することになり、商店街南端の入り口まで向かいながら掃除をしていた。

 どうやら喫茶店から南端の入り口までを往復することで、合計2回清掃できるという算段であるらしい。

 そして今、俺たちはその往路の途中なのだが――。


「あぁ、一生懸命な先輩の姿……尊すぎます……」


 浦上の背中を見ながら表情筋を崩すソイツは、浦上に夢中なあまり、手が止まっていた。

 その様子を見た俺は、近くにいた高坂に思わず尋ねる。


「……なあ高坂、アイツって何者なんだ?」


 喫茶店内での一件もあり、気まずくなるかと思ったが、高坂は淡々と答えた。


「アイツは1年の小牧陽奈(こまきひな)だ。明るくて人懐っこい性格をしているのだが、特に浦上がお気に入りみたいだ。なぜお気に入りなのかは知らないが」


「いわゆる"推し"ってヤツか?」


「そんな感じだろうな」


 ――なるほど、変わったヤツだ。

 個人的には、推しと言えばアイドルやらアニメキャラクターやらにいるのが一般的だと思っていたが、小牧のように身近なヤツを推しているパターンもあるらしい。

 そもそも推しと言うのは、誰にでも当てはまるものなのかもしれないが……と、俺が推しの定義について疑問を抱いていた時だった。


「ふっふっふ……どうやらあなたは浦上先輩の魅力を知らないようですね。いいでしょう、この陽奈が直々に教えて上げましょう!」


 突然、ソイツが目の前に現れた。


「……いや、なんだ急に」


「だーかーらー、陽奈が浦上先輩の魅力をあなたに教えて上げるって言ってるんです!」


 ――あぁ、これは面倒くさいことになるな。

 直感的にそう感じた俺は、助けを求めるように隣にいる高坂に声をかけた。


「なあ……」


 だが、高坂は既に後ろの方で作業を再開していた。


「アイツ……」


「おっと、逃げようとしたって無駄ですよ、不良さん!」


「おい、その呼び方はやめろ」


「じゃあ何て呼べばいいんですか?」


 俺はその問いを受け、顎に手を添える。


「……そうだな。とりあえず、俺の名前は御堂大和だ。お前のお気に入りの浦上と同い年だから、その辺を踏まえて好きに呼んでくれりゃあいいさ」


「それじゃあ、不良先輩で!」


 不良って呼ばれるのが嫌って意味だったのだが……まぁ、好きに呼べと言ってしまった俺が悪いのだろう。

 どこか納得できないままの俺に対して、小牧は続ける。


「それにしても、浦上先輩と同い年なんですね。てっきり高坂先輩と同い年なのかと思いましたよ」


「そうなのか」


 どうやら意外と年上に見られていたらしい。恐らく、高坂とタメ口で話していたからだろう。


「でしたら、なおさら浦上先輩の魅力を知ってもらわないといけませんね!」


「……何でそうなるんだよ」


 結局この話題に戻ってしまい、俺は思わず溜め息を吐いた。


「それじゃあお伝えしましょう!まず浦上先輩と言えば、あの清楚な雰囲気で――」


 そして、南端の入り口に着くまで、俺はその魅力とやらを聞かされ続けたのだった。


★―★―★


 それから、俺たちは南端の入り口に到着した。

 小牧は満足したのか、俺から離れて浦上の元に行っている。


「ご苦労だったな」


 到着するや否や、高坂がそんな一言をかけてきた。


「高坂……お前、こうなると分かって逃げただろ」


「それは違うな。お前が小牧と二人で話せるように、私は身を引いただけだ。そうしたら、意外と長話になってしまっただけに過ぎない」


「はっ、物は言いようだな」


 もしかしたら高坂は本心で言っているのかもしれないが、俺からしたら、小牧の話から逃げたようにしか見えなかった。

 まあ、それはもうどうでもいい事なのだが。


「それよりも、ようやく入り口に着いたんだ。さっさとこの辺掃除して戻ろうぜ」


「適当にはするなよ」


「わーかってるよ」


 俺と高坂がそんな会話をしていた時だった――。


「誰か!その人を捕まえて!」


 突如、商店街の方から女性の悲鳴が聞こえてきた。

 俺たちが声のする方を見ると、片手にナイフを握っているヤツが、肩掛けバッグを抱えて、こちらに向かって走って来ていた。


 ーーこの前姉さんが言っていた窃盗犯か。

 俺はすぐにその正体を察した。


「あわわ、どうしましょう!」


「せせせせんぱい、おちおちついてくだしゃい!」


 浦上と小牧は突然の事態に慌てふためいている。

 その間にも、泥棒はどんどんこちらに向かって来る。

 そして、俺たちとの距離が残り5メートルを切った。


「どけっガキども!」


 泥棒はがなり声で叫び、ナイフを左右に振り回している。浦上たちは反射的に道を開けてしまった。


 3メートル……2メートル……1メートル……!


 泥棒は俺たちの真横を走り抜ける――はずだった。


「がぁっ!?」


 次の瞬間、そんな悲鳴と共に、泥棒は顔から地面にダイブした。その隙を見逃さず、俺はすかさずナイフとバッグを奪い取り、高坂は泥棒を取り押さえる。


「観念しな」


 高坂が冷たくその言葉を吐く。


「このガキどもっ、何しやがるっ……!」


 抵抗しようとしながらも地に這いつくばるソイツを、俺は見下す。そして、嘲るようにその言葉を吐いた。


「わりぃな、生憎と素行不良なもんでな。つい足が出ちまったわ」


「……っクソガキがぁぁぁ!」


 男はそう叫んだ後、再び暴れだそうとした。

 しかし、高坂に加わって俺も押さえつけたので、男は完全に身動きが取れなくなってしまった。

 それでも尚、男は必死に抵抗しようとする。


「おいおい……往生際がわりぃぜ、おっさん」


「いい加減諦めることだな」


「……このっ!」


 2対1でも諦めないおっさんに、俺はある意味感心してしまった。

 だが、そんな抵抗も長く続くはずがなく――。


「先輩がお巡りさんを呼びました。もうザ・エンドですよ、おじさん!」


 小牧が力強く叫んだ。

 どうやらこちらで押さえている間に、浦上が警察に通報したらしい。


「……ザ・エンドだそうだ。まだ抵抗するか、おっさん?」


「……っ」


「それを言うならジ・エンドだ」


 こんな状況下にも関わらず、高坂は冷静にツッコむ。

 一方で男は、警察には抗えないのだろうか、すっかり抵抗の意欲を示さなくなってしまったのだった。


★―★―★


 やがてパトカーが到着し、数人の警察官が現れた。

 辺りは一時騒然となったが、何事も無く男の身柄を警察官に引き渡すことができた。


 男はパトカーに乗せられるまでの間、ボソボソと何かをほざいていたが、自業自得だろう。

 程なくして、男を乗せたパトカーは去って行った。


 だが、そのパトカーには乗らず、何故かその場に一人だけ残る警察官がいた。

 その男は自身も乗っていたパトカーを見送ると、微笑みながら俺たちに話かけてきた。


「皆さん、お手柄でしたね」


 俺はその言葉に対し、()()()()()()言葉を返す。


「今度こそ感謝状をくれてもいいんすよ? 若槻さん」


 俺がそう言うと、若槻さんはふふっと笑って。


「ええ、そうですね」

と応えたのであった――。

お読みいただきありがとうございました。

今回は新たに、小牧陽奈さんが登場しましたね。浦上先輩が推しだと言う、これまた変わり者のキャラです(笑)。

そして、2話で初登場した警察官の若槻さんが、再び登場しましたね。

事件を解決した大和君と生徒会執行部メンバー、そして若槻さんはどんな展開を見せてくれるのでしょうか。

それと余談ですが、大和君の「素行不良なもんでな」ってセリフ、ずっと描きたかったシーンなので、投稿できて満足です(笑)。

長くなりましたが、次回もまたよろしくお願いします(→ω←)

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