信じてついていく
青い瞳で、じっと二人を見ていたフィヌイだが……
急に耳をぴんと立て鼻をひくひくさせると、上半身を低くしラースに向かい子狼の姿のまま吠えたのだ。
「きゃう、きゃう!」
攻撃するような吠え方ではなく、なにかを伝えようとしているような鳴き声のようにも聞こえる。
予想外の展開に、ラースはなんだか毒気が抜かれたような顔をすると、
「なんだよ…何言ってんだよ。俺はティアじゃないから、お前の言葉がわかんねえんだよ!」
「ぎゃう、きゃう!」
なおも吠え続け――子狼の姿のまま少し進むと、後ろを振り返りラースの顔をじーと見たのだ。
彼はティアを抱えたままフィヌイに近づくと、また少しフィヌイは歩き、同じように後ろを振り返り吠える。それを何度か繰り返すのだ。
「……。つまり、ついて来いってことか」
ようやく自分の意図を察してくれたとわかりフィヌイは頷くと、今度はだっと駆けだしたのだ。
ラースは意識が失ったままのティアを荷物を担ぐように、よいしょっと右肩に担ぎ上げる。そして子犬のフリをしているフィヌイの後を追い走りだしたのだ。
ここでティアを、おんぶやお姫様抱っこをするという選択肢は、まったくの論外――! 彼の頭の中では、微塵も考えてなどいなかった。
わざわざそんなことをして運んだら、森や山など走りにくいことこの上ない……
荷物のように担いで走ったほうが効率よく運べるというものだ。ここはひたすら効率の重視が基本だ。
フィヌイは見た目こそ小さな子狼の姿だが、森の中を素早く駆け抜けてゆく。それでもついてこれるように速度を落としているのは、彼も気がついてはいた。
ラースはフィヌイの後を追い走りながら、冷静になった頭でこいつがティアの為に急いで場所を移動しているのだという思いに至る。
考えてみれば――自分と同じようにティアの魔力を察知してその場所に向かっている奴らもいるはずだ。
そいつらに、気づかれる前に急いでティアを安全な場所まで移そうとしている。そんな気がしたのだ…
フィヌイに対して、頭に血が上ったはいえ先入観だけでこいつを疑うようなことを口にしてしまったことに少しだけ反省はする。
だが、問題は向かっている先だ。この方角には、確か……鉱山のある方角だ。
まさかとは思うが、敵がいるところに真正面から突っ込むようなまねはしないとは思うが…ラースは不安を抱えながらも、それでも他に行くところもなく
……取りあえず信じてついていくことに決め、腹をくくったのだ。
またしても、道なき道を進むことになるとは……
今度は山ではなく森の中だが……縦横無尽に飛び跳ね駆ける、灰色の小動物を見失わないよう必死でついていく。
そしてフィヌイの奴がようやく止まり、着いた先はやはりと言うべきか…
「やっぱり鉱山かよ……」
ラースは夜の闇の中でもはっきりとわかる、剥きだしの大きな岩山を見つめたのだ。




