魔力の在処
夜眠るときデックの小僧が敷いてくれた藁のおかげで、横になり寝るには不自由はしなかった。
……だが、ラースは眠ることはせず、ただ静かに天井を見つめていた。
――少し前だったか。家の者が全員眠り静まった頃合いに、ティアがそっと外に出ていったのだ。
おおかた眠ることができずに、夜の散歩にでもいったのだろう。
ラースは彼女が外へでかけたことに気づいてはいたが、あえて止めることはせず、眠たふりをしていた。
こんな場所で、普通に考えれば夜出歩くなど物騒というもの。
いつもの彼なら夜出歩くのは危険だと呼び止め注意するところだが、今回は彼女を止めることはしなかった。
なぜならそのすぐ後、ティアの傍で寝ていた犬っころが、後を追いかけていったのだ。
あいつが一緒なら、ティアも大丈夫だろうとそう思った。
それに……あの犬っころが、どうやって戸を開けて外に出ていくのか興味もあったし、黙ってこっそりと見ていたのだ。
しかし実際は、前足の爪を戸に引っかけ隙間をあけて、そこに身体を押し込みねじ込んで自分の通り道の分だけ開けて外にでたのだ。
まるっきりふつうの動物じゃないか!? と思わず突っ込みを入れそうになってしまったが…
てっきり外へ瞬間移動するとか、魔力を使い戸を開けることを想像していたのだが、普通過ぎて期待外れもいいところだ!
おまけに、戸は開けっ放しのまま出ていきやがるし……
入口の近くで寝ていたラースは、しぶしぶ開け放しになった戸を閉めに起き上がったのだ。
あの犬ころ~ 俺が起きているのに気づいて、ああいう出ていき方をしやがったな……知能があるなら、戸ぐらいちゃんと閉めてから外へいけよな。まったく…
心の中で愚痴りながらも開いている戸を閉め、またごろんと横になる。
それからは、眠ることはせずじっと家の天井を見つめていた。
しかし、いくらなんでもあいつら帰りが遅すぎる。
さすがに気になり、自分も外へ様子を見に行こうとしたその時だった――
「――!?」
大きな魔力の衝撃波を感じたのだ。
これは、ティアが治癒魔法を使うときに放つ魔力。間違いない……!
しかもこれほどの広範囲に、しかも村全体に向けて魔力を放つだと…?
一番近くに放たれた魔力の波動を感じ取ると、そこはデックのお袋さんが寝ているところだ。
目を閉じて……魔力の波動を視ると、呪いが原因で発症しているお袋さんの病が癒えていく。
あいつが聖女の治癒の奇跡を施したのと同じように……驚くことに瞬時に地味に悪い呪いの元となる病も消え失せていた。
直接、様子は見ていないが間違いない、病は完治している。
ラースは急ぎ外にとびだすと、魔力が放たれた場所目指し走りだしたのだ。
――ティア……!
フィヌイは子狼の姿のまま、急いでティアの元へと駆け寄ったのだ。
「フィヌイ様…大丈夫ですよ。少し眩暈がするだけですから……心配しないでください」
――本当に?
「……。初めて使った広範囲の治癒の奇跡だったもので…ちょっと疲れちゃただけだと思います……」
ティアは心配させまいと笑顔でフィヌイに話しかけた、そんな時だった。
「おい!! お前、無事なのか!!」
突然の大声に遠くに目を向けると、ラースがこちらに向かい走ってくる姿が見えたのだ。
彼はティアの傍にくると、いきなりがしっと両手で彼女の肩をつかんだのだ。
「今の魔力はなんだ……!? やっぱりお前なのか!!」
「あはは……ちょっと、張り切って聖女の治癒の奇跡を、広範囲で使ったらちょっと疲れちゃって…」
「……お前、一体何者なんだ!?」
「…? いや、だから…フィヌイ様に聖女にたまたま選ばれただけで……」
「俺が言いたいのはそんなことじゃない!! お前自身、強い魔力をもっていないと、ここまでの広範囲魔法は使えないって言ってるんだよ!」
「ごめん…。ちょっと疲れたみたい……このまま眠らせて…」
そう言ったきり、ティアは意識を失った。大きな力を使い過ぎ、疲れがピークに達したのだろう。
慌ててラースは彼女をそっと抱きかかえると、フィヌイを睨みつける。
「お前…一体なにを企んでいるんだ」
フィヌイは子狼の姿で、何も言わずにじっと二人を青い瞳で見つめていたのだ。




