大きな責任を自覚する
「フィヌイ様…。はい、そうなんです。やっぱり…本当のことはさすがに言えなくて、それが気になってしまって…」
そう言ったまま、ティアはうつむいてしまった。
フィヌイは、ティアの傍に子狼の姿でてくてくと近づくと、もふもふの毛並みをつけ静かに寄り添ったのだ。
ティアはフィヌイをそっと抱き上げると、背中のもふもふした毛並みに顔を埋めながら、
「フィヌイ様…お願いがあります。私にできることがあれば、聖女としてこの村の為に何かしたいんです。力を貸してもらえませんか?」
――もちろん、ティアがそう望むのなら――でも、具体的にはどうしたいの?
フィヌイの青い瞳は、じっとティアの顔を見つめている。
「この村に蔓延している病を、まずは取り除きたいと思います。デックくんのお母さんが言っていたように、これは普通の病気とは明らかに違います。たぶん普通の治癒魔法や薬草でも治らない……」
――なにか、気がついたことがあったんだね。
「はい、……上手くは言えないけど、なんだか嫌な気配がします。黒い霧のようなものが鉱山の辺りを覆っているのが見えたんです。それにデック君のお母さんにも、薄くですが同じものが見えました」
――なるほど…当たってる。それは普通の人間には見えないもの。ティアの聖女としての力が強くなってきている証拠だね。
ティアの答えにフィヌイは満足そうな顔をする。だが不思議なことに、ほんの少しだけ複雑そうな顔をしたのだ。
「お母さんだけなら、私が直接触ったときに『治癒の奇跡』を使い治療することができます。けれど、さっきの話では、村の人たちの大半も同じ病にかかっているということですよね。一人ずつ時間をかけ治療することができれば、全ての患者を治すことができる。けど……この村にウロボロスの奴らがいる。ならその方法は取ることは危険です。村の人たちを巻き込むし、それにラースも危険にさらしてしまう」
――ティアの命が狙われ、周りを巻き込むリスクも高くなるね……それにこの呪いの厄介なところは、聖女でなければ解くことができない代物なんだ。逆にティアが死んでしまったら人の身ではだれもこの呪いを解くことはできない。僕も無制限には力を使えないし、神としての誓約もある。上位の神官クラスの治癒魔法でも、もちろん無理だし……でも、ティアも無茶なことを考えず冷静な判断ができるようになったんだね。
フィヌイ様はゆっくりと尻尾を振ると、成長した子供を見るような優しい眼差しを向けたのだ。
「本当は今から村を回り、『治癒の奇跡』を使いたいんですけど……前回は使い過ぎてすぐに倒れてしまったので、悔しいですけど……今の私の力だけでは無理なんです」
――そこに気がついただけでも上出来だよ。本当に成長したね……聖女としての自覚も出てきて少し寂しいけど嬉しいよ。
「フィヌイ様…?」
予想に反してちょっと悲しげなフィヌイにティアは首を傾げる。いつもの調子なら大喜びしそうなのに、
そんなティアの様子に気づいたのか、急に明るくフィヌイは、こう告げたのだ。
―― ねえ、今練習中の広範囲の治癒の奇跡を使ってみようよ。ティアに足りない所は僕がサポートするから、
「それで、多くの人が助かるならお願いします!」
ティアは、決意を込めた眼差しで子狼姿のフィヌイを見つめたのだ。




