私にできること・・・
「こいつが、か…?」
デックくんは少しの間だけ固まったあと、
なぜか目をきらきらと輝かせフィヌイ様をラースから奪い取り、じ―と見つめたのだ。
子犬のフリをしながらも、フィヌイ様は戸惑ったような居心地が悪そうな顔をしてそわそわしている。
「すげぇ……! カッコイイ、お前ぜったい狼みたいに将来もっとかっこよくなるぞ! 」
どうやらフィヌイ様のことが気に入ったようである。
子供だからかな? 興味の対象が私たちの話からすぐにこっちに移ってしまったようだ。理由はよくわからないけど…
いきなりフィヌイ様をもみくちゃにすると、ガシガシと撫で始めたのだ。乱暴に撫でられ、哀れな子犬のように目を潤ませた顔で助けを求めてくるがティアは心を鬼にする。
ごめんなさいフィヌイ様! しばらく間…時間稼ぎをお願いします……と心の中でひたすら謝まる。
その間に、村の状況についてお母さんから話を聞いておこうと思ったのだ。
「あの…先ほどの話ですが、どうしてこの村はこんな状況に、それに呪いというのはいったい?」
彼女は話すべきなのか少し戸惑っていたが……このままでは村は、悪化の一途をたどりもう限界に近付いていると思ったのか?
それとも…僅かな望みを託し外に助けを求めるためだったのか、ティアには人の心の中はわからないが、彼女は重い口を開きこの村の現状を話してくれたのだ。
話の内容は大まかに説明すればこんな感じだ。
ここは珍しい魔力を秘めた特殊な宝石の採掘地として国の庇護の下、小さな村だが、昔はとても賑わっていたそうだ。
だがある日――見たこともない魔力を操る集団が突然現れ、村と鉱山を占拠したのだ。
村を占拠している間、男たちは鉱山へと連れていかれ強制的に働かされ、彼らに反抗した村人もいたがその人たちは、連れていかれ行方不明のまま……
そうしている間にも、彼らは大規模な魔力を用いた儀式を始めると宣言した。そのときから村人は原因不明の病に次々とかかり始め、これは呪いをかけられたのだろうと村人たちは噂したのだ。
その間にも、国もなんとかこの村を取り戻そうとしたらしいが、占拠した集団に苦戦し今は睨みあいを続けている状態のまま。
彼女はティア達に村を出たらこのことを国に話し、急ぎ助けて求めてほしいと訴えたのだ。このままでは村は無くなってしまうと…
その後、質素ではあったがお母さんやデックくんにとっては精一杯のもてなしをしてくれた。
しかしティアは、どうしても話すことができなかった。
ラースから聞いた話では、国がこの地を放棄してしまったことを……
その日の夜、ティアはどうしても寝つけずこっそりと外へとでたのだ。
夜の闇は深く、風はひんやりとしていた。空を見れば厚い雲に覆われ、星の輝きすら見ることはできない。
明け方までにはまだ時間はかかる、そんな夜更け頃。
もう一度眠る気にもなれず家の外の森林を歩いていると、てくてくと小さな足音が聞こえたのだ。
――ティア、眠れないの?
後ろを振り返ると、そこには子狼の姿をしたフィヌイ様がいたのだ。




