先を見据えて行動する
「痛…何するんだよ! 余所者のくせに……」
「はあ、なにいってるんだ…? こっちは親切で止めてやったのによ、わかってねえガキだな」
「いて…!」
ラースはそう言いながら、睨んでくる男の子の頭にさらにげんこつを落としたのだ。
「す、すみません。私の連れがお宅のお子さんにとんでもないことを…後で、きつく言い聞かせますので!」
「い、いえ、こちらこそ…息子のデックがお客様に大変失礼なことを、本当に申し訳ありません」
何とか騒ぎを収めた後、ティアと男の子のお母さんは小さくなりながら交互にぺこぺこと謝ったのだ。
「ティア? なんでそんなに謝るんだ…悪いのはそのガキだ!」
「お前がいうな! 子供相手に同レベルの争いをして… まったく、誰のせいでこっちは謝っていると思っているのよ」
「きゃう~」
まったく反省が見られないこの男に、ティアは一気にどっと疲れがでる。フィヌイ様も、子狼の姿でそうだぞ! と頷いていたが、
「…そうは言うがな、真面目な話。多少強制的だったが俺は親切で止めてやったんだぞ」
ふとラースは、真剣な顔でそんなことを言ったのだ。
「どういうことよ…」
「確かに…そのガキが報告すれば俺たちは捕まる。だが、それだけじゃすまねえ。
このガキは目先のことしか考えてないが…あいつらのやり口を知ってる俺から見れば、こいつらだって無事ではいられない。最悪、他の村人に見せしめのため処刑だってありえる」
「……!」
デックくんが驚いたように目を開け、ショックを受けたようにうつむいていた。
…そりゃそうだろう。
こいつは、子供に向かってなんてことをいうんだ。ティアがラースを注意しようとした瞬間、お母さんが横から口を開いたのだ。
「そうだと思います……。この子の父親も、彼らがこの村に来たとき他の村人と反発しましたが…どこかへ連れ去られてしまいました。彼らがやってきてから、この村は変わり呪われてしまった」
「どういうことですか?呪われるって…もし良かったら、詳しく話を聞かせてもらえませんか。力になれることがあるかもしれません」
「それは……」
ティアの言葉に、憔悴しきった彼女が口を開きかけたとき、
「言っちゃだめだよ、かあさん!…だいたいこいつらがこの家にきたりしなければ、こんなことには……」
「あのな、俺らだってこの村に入りたかったわけじゃねえよ! 文句があるならこの犬っころに言え! こいつが勝手にお前の家に向かって突進したんだからな」
ずずっとラースは、子狼姿のフィヌイ様の首根っこを掴むとデックくんの顔いっぱいに近づけたのだ。
今は灰色だが、それでも ぴんとたった可愛い耳。お饅頭のような愛らしいもふもふの子狼の顔。
「ぎゃう…」
フィヌイ様は本当に不満そうな顔で、子犬のフリをして一言ラースに文句を言ったが、
だが…ディックくんは途端に目を輝かせ、フィヌイ様を見つめていたのだ。




