知られざる真実
「やっぱり・・様子がおかしかったから気になっていたのよ」
それに――とアイネはそこで言葉を切ると、
「昨日の夕刻、神殿からの使者が来たの。貴女がここに立ち寄ったらすぐに追い返すように言ってきたわ」
「えっ・・・」
ティアは弾かれたように顔を上げる。そこまで意地悪をしてくるのか・・。なんて奴らなのかと沸々と静かな怒りがわいてくるが、
アイネはお茶を飲みながらティアの様子を静かに見つめていた。
「ティア、落ち着いて。この話にはまだ続きがあるのよ。今日の早朝だったかしら。また例の使者が来て今度は、貴女がここに立ち寄ったらすぐに神殿に報告するようにですって」
「先生は、私が救護院に来ていること神殿に報告するんですか?」
アイネは静かにかぶりを振ると、
「いいえ。あの人たちの言うことはあまりにも不可解だもの、信用できないわ。私は自分の目で見て判断したいと思っているの。ねえ、私に神殿でなにがあったのか話してみない。話せる範囲でもいいから・・」
ティアは膝の上いる神様を見たが、フィヌイは子犬のフリをして気持ち良さそうに眠っている。いや、よく見れば耳がぴんっと立っているので完全に寝たふりだ。
どちらにしろ神様の助言は期待できないとティアは諦め、自分で答えることにした。
もちろん、白い狼の姿をした神様と出会い不本意だが聖女になってしまったことは伏せて、それ以外のことはすべて話したのだ。
フィヌイ様との出会いについては、一人で泣いていたときにどこからともなくやってきて私に寄り添ってくれた子犬ということにする。
決して嘘ではない!肝心なところは話していないだけで・・
「そう・・そんなことがあったの――そんな理不尽にティアは今までずっと耐えていたのね。ごめんなさい。私・・貴女の力になってあげることができなかった・・」
「そんな、謝らないでください。先生が悪いわけじゃない!悪いのは神殿の奴らですからどうか顔を上げてください」
顔を上げるとアイネは、ティアの手を両手で優しく包みこみ。
「貴女がそんな酷いことする子じゃないって私が一番よくわかっているわ。私は貴女のこれからの幸せをずっと願っている」
「ありがとうございます。先生、その言葉だけで十分です」
ここでも自分のことを気遣ってくれる人がいてくれた。心が温かい気持ちでいっぱいになる。
「でも、おかしいわ。なぜフィヌイ様の神像が真っ二つに割れたのかしら。これって、神託なのかもしれない・・」
「あ、そういえば・・」
それに関してはあまり深くは考えていなかった。
だが、ふと気がつくと膝の上で、もぞもぞとフィヌイは動きだしていた。目を薄っすら開けるとティアの顔を見つめ、
――それは僕が、後ろ足で像を蹴り飛ばしたから壊れただけ。神殿を出て行くって言うただの意思表示。正確にその意味を理解できる人は、神殿にはいなかったみたいだね。もしかしたら今頃、僕がいなくなって神殿では大騒ぎになっているかもしれないけど。
フィヌイは気持ちよさそうに、大きくあくびをするとまた目を閉じたのだ。