灰色の子狼、道案内をする
わかってはいたが…フィヌイ様がラースの言うことなど聞くわけがなかった…
本当に可愛いところもあるが、基本は気まぐれな神様である。
そういうところは、ほんとーに広い心で見守ってあげないとダメなのだ。
ラースはフィヌイ様の気まぐれなところにカリカリしているようだが、そんな性格ではストレスで突然死。
または、将来ハゲてしまうのではないかとティアは本気で心配している…
性格はともかく、見た目は美男なのでさすがにもったいない。
それでもフィヌイ様ったら…真っ白な子狼の姿ではやはり目立つと思ったのか……何故か、かまどの灰が捨てられている場所にいきゴロゴロと仰向けになり体に灰をこすりつけていた。
――これで、灰色の子狼になったから、もう目立たないね。
と、自信満々に言っている。
ただ……灰を擦りつけ遊んでいたようにも見えたのだが、そこは突っこまず黙っておくことにする。
私たちは宿泊していた村をでてすぐ、街道から山へと入ることにした。
最初の頃はラースが先導して山の中を歩き……
フィヌイ様といえば、始めはいつものようにカバンから顔だけを出しておとなしくしていたが、途中からカバンから跳びだし、山の中をテクテクと歩き始めたのだ。
「きゃう、きゃう!」
「ラース――! ここからはフィヌイ様が案内するってさ。だからこのままついて来るようにって言ってる」
ティアは先頭を歩くラースに、子狼姿のフィヌイ様の言葉を通訳する。
「あぁ、まさかとは思うが、危険なところに向かい一直線に進むんじゃねえだろうな……」
「きゃう、きゃう!」
「無駄口叩く前に、聖女を守る護衛なんだからちゃんと働けって言ってるよ」
「そんなことは……わざわざ言われなくてもわかってるんだよ!」
舌打ちをすると、渋々といった感じでラースは後ろに下がったのだ。
う~ん。わかってはいたけど、あいつのフィヌイ様に対する失礼な態度は相変わらずか……
フィヌイ様のこと、神様だってまだ信用していないな。
強い魔力を秘めた神獣か、霊獣って思っているような感じだろうか。それとも神様のことが嫌いなのか……?
フィヌイ様もそれはわかった上で、こいつを目の届く範囲に置いているようにも見えるし。
だが…あまりにも態度が悪い場合、ラースにはもれなく天罰が当たっていた。
例えば突然、暴れ馬が現れたかと思うと一直線にラースめがけて突進し、彼を空の彼方へと蹴り上げすっとばしてしまうこともあれば…
またある時は、謎の地割れがラースの足元にだけなぜか発生。その地割れに彼が落ちてしまうというものだ。
普通の人間なら確実に死亡だが、彼は驚異の身体能力いつも生還してしまうのだ。
もちろん、いくら彼でも無傷ではない。そのたびに私は聖女の治癒能力を使い治療していたのだ。
ティアはあらためてラースの身体能力を目の当たりにし、フィヌイ様がラースを護衛に選んだことに間違いはなかったのだと驚きつつも、感心していた。
そうこうしているうちに、先頭を歩くフィヌイ様の足がはたっと止まる。ちょうど山の中腹辺りを歩いていた時だった。
フィヌイ様は眼下をじーと見つめている。そこには民家の灯りのようなものがおぼろげだが、ひとつ見えていた。
「フィヌイ様……?」
――ティア、民家の明かりが見えるよ! もう夕方近くだし、今日はあの家に泊めてもらおうよ!
言うが早いかフィヌイ様はウサギのようにぴょんと跳ね上がると、民家の明かり目指し一直線に山道を駆け降りて行ったのだ。
「フィヌイ様、待ってくださいよ~~」
「お前ら!! 勝手に行動するんじゃねえ~」
フィヌイの後を追いかけ、ティアとラースもそれに続き山道を駆け降りていったのだ。




