狸寝入りの神様
「今度は、そっちの番だ。……ティア、こいつの目的地をできれば正確に聞いてくれ」
ティアはラースの言葉に静かに頷くと、二人はフィヌイの方に視線を向ける。
だが、そこには――
今まで目をぱっちり開けてそこに座っていたはずのフィヌイ様は……
「すうぴい、すうぴぃ、すぅ~」
「……。」
「……。」
フィヌイ様は子狼の姿で、床で丸くなりスヤスヤと眠っていたのだ。
か…か可愛い~、
どうりでおとなしいと思ったらフィヌイ様、眠かったんだ。そうだよね、夜も遅いし。
しかも丸くなって眠っている姿が白いキツネみたい… ダメだ!この姿、可愛すぎて起こせないよ。
それにあまりにも尊すぎる!
ティアは、他人からはよくわからない強い決意を固めると、くるっとラースに向き直り、
「ごめんなさい! その話は明日にしましょう。フィヌイ様は、今日はお疲れのようで眠ってしまったわ。私ではとても起こすことはできないの」
「はあ! 何言ってるんだ……。お前がいつもそうやって、甘やかすからこいつがつけあがるんだよ……!」
ティアは沈痛な面持ちで真面目にそう答えたが、ラースはわなわなと震えて、なんとか言葉にすると頭を抱えたのだ。
ダメだ……これじゃ、まったく話が進まねえ。
こいつのことだ……十中八九狸寝入りだろうが、ティアが動かなければどうにもならない。
無害な動物のふりをしている犬っころに苛立ちを感じながらも、これ以上の踏み込んだ話は諦め、ティアに最低限のことだけを伝えるに止める。
「いいか! 出発は明日の早朝だ。それと……お前がいつも着ている修道女のローブは目立つから着るのは止めておけ。代わりに、今回はこの古びたローブにするんだ。
それと狸寝入りしているそいつは、色が白で目立ちすぎる。山の中を歩くときはそいつをカバンに押し込めるか、姿を消すかどちらかにしろと言っておけ! わかったな!」
それだけを言うとラースは機嫌悪く扉を閉め、自分の部屋へと戻っていったのだ。
ティアは彼から押し付けられるようにして貰った、古びたローブを持ったままぽかーんとする。
あいつはなにをそんなに怒っているのか……明日以降にでも、また話を聞けばいいことなのにと首を捻る。
まあ、シリアスな話は強制終了となったが…聞くタイミングは、今ではないのかもしれないとティアはぼんやりとそんなことを考えていた。
フィヌイはラースが部屋を出て行ったのを確認すると、薄く目を開け尻尾を一振りする。するとまた、何事もなかったかのように静かに目を閉じたのだ。
そして早朝―― ティア達はシェラー村を目指し出発したのだ。




