夜のざわめき
「ここからシェラー村までのルートだが――裏街道からすぐに外れ、山沿いを進みつつ村を目指すつもりだ。これが俺が調べた限り、最も安全なルートだ」
僅かな蝋燭の明かりの下で、
この周辺の地図を広げると、指で示しながらラースはシェラー村までの経路を説明する。
ラースがティア達の待つ、村の宿屋に戻ってきたのはあれから三日後の夜のこと。
夜中に帰ってきたばかりにも関わらず、話を始めたいと言いだしたのでティアは承諾したのだ。ずいぶんと真剣な表情だったので、ティア達は話を聞くことにした。
それにこいつが言うには、今の時間帯なら盗み聞きされる可能性は低いので今のうちに話しておきたいというのだ。
まずはこいつが戻ってきてくれて一安心といったところか……
さすがに、四日目になっても戻ってこなかったら、ティアはフィヌイ様の力を借りてラースを探しに行くつもりでいた。
「おい、ティア。こいつに正確な目的地を聞いてくれないか?できれば立ち寄れるところはピンポイントにしたい。
お前たちはできるだけ無駄な場所には行かないほうがいい」
「ねえ、フィヌイ様に聞く前に、あなたにその理由を聞いてもいい……? 偵察に行ったってことは、なにかわかったんでしょ」
ティアの言葉に一瞬迷いを見せたが、彼は少し迷ったあと重い口を開いたのだ。
「まぁ…そうだな、隠してもいずれはわかることだ。……確かに今のうちに話したほうがいいよな。だが、俺にも事情がある。話せる範囲まででいいのなら…」
「それでもいいよ。こちらも、無理には聞かないわ」
「きゃう」
フィヌイ様も子狼の姿で、それでいいと寛大な心で言ってくれたのだ。
ラースは言葉を選びながらも、話せる範囲までのことをティア達に話したのだ。
まず……シェラー村の近くにあるザイン鉱山では、魔力を増幅させる特殊な宝石が採れ、それを『魔石』というらしいが、その恩恵で村は、昔はとても豊かであったこと。
その場所は以前、国の直轄地として保護され厳重に管理されていたらしいが、とある大事故をきっかけに王家はこの地を放棄したらしいことも……
話を聞き終わるとティアは腕を組み考える。フィヌイ様は子狼の姿のままで、青い瞳でじ―とあいつを見つめていた。珍しく口を挟まず黙って聞いてくれている。
「大事故って何だったの?もちろん、話せる範囲でいいけど」
「以前、別件で調べたことがあってな……ただ俺も詳しくはわからんが。表向きは鉱山の大規模な崩落事故のようだが、本当のところは大規模な魔法の暴発らしい。それには奴らが関与している可能性がある」
「まさか……ウロボロスのこと」
「そうだ……。これから行く目的地には、奴らがいると思った方がいい」
ラースは厳しい目つきで、ティア達にそう伝えたのだ。




