ラースの考察
シェラー村 周辺 ――
俺の記憶が間違っていなければ、シェラー村はザイン鉱山の近くにある小さな村のことだ。
その鉱山で採掘される宝石の恩恵で、村はたいそう豊かだったそうだ。だが、それは少し前の話だが…
あの白い犬っころの言う通り、ザイン鉱山では特殊な宝石が採れる珍しい鉱脈がある。
だが、取れるのはただの宝石ではない…
魔法を扱うものであれば、誰もが喉から手が出るほど欲しがる、簡単にいえば魔力を増幅させる『魔石』だ――
ラースは昔、実物を見せてもらったことがあるが、採掘される魔石は全てが無色透明で、犬っころが言うような青い魔石など存在しないはずだ…
それに以前この村は、この国の直轄地として保護され厳重に管理されていたらしいが、とある事件をきっかけに王家はこの地を放棄したのだ…。
王城の書庫のさらに奥にある、禁書が収められている部屋。その中にあった書物に記載されていた内容だ…それでも詳細は暗号化され巧妙に隠されていた。
かなりヤバいよな…ふとそんな予感が頭をよぎる。こういう時の勘は、昔からよく当たるのだ。
不安を煽るだけの余計な考えだと頭ではわかってはいる…ラースはその考えを頭を振り打ち消すと、山の中を走ることに集中する。暗闇に紛れ、気配を消して進んでいく。
やがて村の入口へとたどり着くとふいに足を止めたのだ。人の気配に気づき、素早く木の陰へと隠れる。
村の入口には見張りらしき男が二人。気配からして、普通の村人ではない。
幸いにも、夜から降り続いた雨のお陰で辺りは霧が立ち込め、自分の姿を隠してくれる。それだけが救いだ。
彼は、慎重に偵察を続けたのだ。




