雨、そして霧の中へ
外を見れば、雨がしとしと降っていた。
秋の天気は変わりやすいとは聞いてはいたが、昨日はきれいな青空だったのに今日は夜明け前からぐずついた天気。
ティアは宿の部屋から窓越しに、外の風景をぼんやりと眺めていた。
フィヌイ様といえばいつもの子狼の姿で、布で作ったボールをくわえたり、追っかけまわしたり、外で駆け回れない鬱憤を晴らすようにボール遊びをしていた。もちろん、私もフィヌイ様と一緒についさっきまでボール遊びをしていたが、今は外の景色を眺めている。
昨日フィヌイ様から次の目的地を告げられた、その日の夜のこと――
近くの村で宿をとり、私とフィヌイ様がボール遊びをしながら自室でくつろいでいるとラースが訪ねてきたのだ。
あいつはシェラー村へ偵察に行ってくるとそれだけを言い残し、雨が降る中ひとり宿を出て行った。
この村から数えること二つぐらい先の村だったか…そこにシェラー村があるらしい。
ラースの話では二、三日で戻るから、くれぐれも動かずこの宿で待つようにと念を押されてしまった。
あいつは、ひとりで大丈夫だろうか…そんなことを私はぼんやりと考えていたのだ。
まあ、私たちの中では一番しっかりしているし大丈夫だろうけど…それでもやっぱり心配ではある。
それにラースが戻ってくるまでの間、どうやって過ごすべきか…
二、三日ただ待つだけっていうのももったいないし、ティアはそんなことを考えていると、
フィヌイ様が、ボールをくわえながらタッタタと走って私の元に駆け寄ってきたのである。
――ラースのことなら心配ないよ。僕の加護をつけてあるから。それに、あいつの現在地もばっちり把握しているしね!
「なるほど! フィヌイ様の加護があれば安心ですね」
――まあ、ここに戻ってくるまで二、三日は確かにかかりそうだし、あいつもいないことだから…それまでの間、新しい地属性魔法の特訓でもしておこうか!
「はい!でも、雨の中でいいんですか」
――ふふふ…もうすぐ雨は止むよ。
フィヌイ様は子狼の姿のまま、青い瞳で空を見上げたのだ。
そして言葉の通り、昨日の夜遅くから降り続いていた雨は止み変わりに濃い霧が広がっていた。そしてフィヌイと共にティアは特訓を開始したのだ。




