救護院にて
救護院とは、主に貧しい人たちを助けるところで炊き出しなどを行っている。また、病院のような役割も兼ねている施設でもある。
神殿が運営する組織のひとつで、ティアが育った孤児院とは同列に位置していた。
しばらく待っていると扉が開き、修道女が対応にでてきたのだ。
ティアが事情を説明し院長に面会したい旨を伝えると、院長に確認をとってくるといわれ外で待たされることになった。
前もって約束をしていたわけではないので、これは仕方がない。
ティアが孤児院を出てから先生はこの救護院の院長になったと噂で聞いていただけで、それ以降の面識はなかったのだ。
先生が会ってくれるなら、相談に乗ってくれるかもしれないのでそれはそれで良し。仮に会えなくっても、ご飯だけは無料で食べさせてもらえる所だから、食事をしたらそのまま帰ればいい。
待っている間、入口の石の階段に座り青空に流れる白い雲をぼんやりと眺めることにした。
――ねえ、先生ってどんな人なの。
フィヌイが横に寄り添うように、ちょこんと座る。
「温かい人かな――誰に対しても平等で、お母さんみたいな人」
――ふ~ん、そうなんだ。
話しを聞きながらフィヌイは尻尾を振っている。
こんな何気ない会話をしていると、ふいに扉が開き先ほどの修道女が姿を現したのだ。
「お待たせ致しました。院長がお会いになるそうです。どうぞこちらへ」
修道女に促されて、ティアは子犬(?)姿のフィヌイを抱きかかえ建物の中へと入る。
薄暗く長い廊下を歩いていくと、正面に大きな扉が見えくる。
案内の修道女がノックをすると中から返事があり、扉が開かれたのだ。
そこは執務室のようで、室内には机と本棚がありその前には見覚えのある懐かしい柔らかな雰囲気の女性の姿があった。
女性が下がってもよいと合図をすると、修道女は一礼して扉を閉め廊下へと去っていく。
扉が閉められたのを確認してから、柔らかな雰囲気の女性はティアに優しく声をかけ、
「久しぶりね。ティア、元気だった」
「は、はい。アイネ先生、本当にお久しぶりです」
久しぶりの再会にティアの涙腺が緩み、思わずウルっとなる。
アイネは四十代後半だというのに、相変わらず年齢よりも十は若く見えた。柔らかで温かみのある雰囲気で、会うだけでほっと安心できるお母さんのような存在だ。
「立ち話もなんだから、座って。お茶を淹れるわね」
「はい」
ティアは言われるまま席へと座る。
「そちらの子は?」
彼女に抱えられている子犬(?)に気づきアイネは声をかけたのだ。
・・まさか、主神のフィヌイ様です――なんて言えるはずもない。
言ったところで傍から見れば、ただの頭のおかしい奴だ・・
「大丈夫です。この子、とてもおとなしいのでこのままでお願いします」
必死で言い訳を考え誤魔化す。
かなり苦し紛れだったが、アイネ先生は納得してくれただろう。多分・・
そして、ほどなくしてお茶がだされ飲み終わった頃合いにアイネはふと話しかけてきた。
「ティア、神殿で何かあったのね」
「・・・。」
唐突な問いかけに返す言葉もなく、ティアはおもわず沈黙してしまったのだ。