旅にはお供がついてくる
フィヌイ様は私の顔をじーと見つめていた。
本人は子狼だと言い張っているが、見た目もふもふの白い子犬にしか見えないその姿のまま、綺麗な青色の瞳が私の姿を映している。
――そんなに気になる・・ラースのこと。
目をぱちくりさせると、フィヌイは小首を傾げたのだ。
やはり、神様には隠し事ができないようだ。
「う~ん、気になるというか・・昔どこかで会ったことがあるような気がするんですよね。でも、ただの気のせいかもしれし、こればかりはなんとも・・」
――まあ、無関係ではないけどね。
「知っているんですか? あいつのこと・・」
意味深なことを言うフィヌイに、ティアは問いかけたのだ。
「うん、知ってるよ。神様だからね。なんならティアに、こっそり教えようか」
「あ・・いや、今はいいかな。なんとか自分で思い出してみます。それがだめでも、ラースが何か言ってくるかもしれないし」
――ふ~ん、ティアがいいなら、これ以上は何も言わないけど・・ところでどうするの?あいつ、僕たちについてきたいみたいなこといってるけどさ。
「そう、それなんですよね・・」
――いっそのことあいつ目障りだし、地面の奥深くに埋めてみる。大地の養分にもなるし、一石二鳥だよ。
「フィヌイ様・!」
――ふふふふっ、冗談だよ!びっくりした・・ でも実際に地面に埋めても、あいつしぶといからすぐに地上に出てきそうだね。
尻尾をふりふり、無邪気なことを言う。
正直どこからが本気で、冗談なのかティアの頭ではよくわからないが。
――でも追い払ったとしても、後から別なの寄こされても困るしね。まあ、適度に頑丈で使えそうだからこの辺で手を打ってもいいかもね。
そう言うとフィヌイはティアに自分の考えを話したのだ。
どうやらフィヌイ様なりの考えがあるようだとわかり、ティアはホッとする。
道の片隅で、コソコソとティアとあいつは何か話をしていた。ティアの声はたまに聞こえるが、白い獣の声はラースには分からない。
ほどなくしてティアは、子犬のふりをした白い獣を前に抱きかかえ彼の前にやって来たのだ。
「お待たせ、フィヌイ様と私の考えがまとまったわ。
結論から言うと、貴方を護衛として雇うことにする。・・聖女の護衛ということなら、フィヌイ様は一緒に旅をしても構わないそうよ」
「ああ、いいぜ・・」
ラースは不敵な笑みを浮かべる。
正直、断られた場合は後方から尾行するつもりだったが、近くでこいつらの動きを直接見ることができるならその方が都合がいい。
「それじゃ、契約は成立したということで、それでいいのね」
――キャウ!
ラースが頷いたことを、ティアとフィヌイはしっかりと確認したのだ。
そして――
「それじゃ、悪いんだけど・・ちょっと屈んでくれる」
ティアに言われラースは身体を低くすると・・突然、ぺったと弾力がある物が額に触れたのだ。
見れば、犬っころの前足の肉球が額に触れていた。
「これで良し!貴方にフィヌイ様の加護が授けられたわ。危険から貴方を守ってくれるそうよ。それと・・フィヌイ様の機嫌を損ねると、天罰が下るらしいから、そこは気をつけてね」
「は・・?」
ティアは満足そうに頷いていたが、ラースの顔色はみるみる青くなる。
――やられた! これは加護じゃなくて、この犬っころの呪いだ・・!!
そう思った時は遅かった。
だが、ティアはそんな駆け引きなどわかっていないようで、彼の前に白い手を差し出すと、
「これからもよろしくね、ラース」
笑顔で握手を求めてきたのだ。
ラースは気がついたときは、自然とそれに答え手を握り返していた。
成り行きはどうあれ、先に進むしかないと彼は割り切ることにする。そして、自分でも知らずにどこか楽しそうな笑顔を浮かべていた。
そして、ちらりと子犬のフリをした白い獣を見ると、喜んでいるティアと対照的にしたり顔をして、こちらをフフフフッと見つめていたのだ。




