気のせいではなく・・
「・・あんたこそ、いつまで私たちについてくるの?」
「さて、なんのことだか?」
心底、迷惑そうなティアの問いかけに、ラースはすっとぼける。
「とぼけないで!私たちが行くところ、つかず離れず付いてくるじゃないの。いい加減、気になって仕方がないのよ!」
「あぁ、バレてたのか?」
「あんたね・・。宿屋で、人のおかずを横取りするわ。私のこと、事あるごとにおちょくってくるわで!」
「宿屋の食堂では、偶然にも突発的な出来事が起きただけだろ。お前、それでも聖女かよ?細かいことで、ちくいち目くじら立てて、ほんと心の狭い奴だなあ~」
その言葉に思わず拳を握りしめ、ティアの口の端も、ぴくぴくと引きつっていた。 ――間違いない!こいつは私のことをからかって遊んでいるのだと・・ティアは確信したのだ。
「いい加減にしないと、フィヌイ様だって迷惑しているんだからね!」
――キャウ、キャウ!
いつの間にかフィヌイ様も、いつもの子狼の姿に戻ると私の前にきて、一緒にそうだ、そうだと反論してくれたのだ。
「お前さ・・このまま聖女として、その犬っころの神託とやらに従って旅を続けるのか?」
「そ、そうよ。さっきもそう言ったじゃない!」
いつもは、人をおちょくるようなことを言ってくる奴が、急に真面目な顔になる。
目つきも真剣で鋭くなり、イケメンな容姿でこちらを見てくるのでちょっとたじろいでしまう。
ラースも口を開かなければ、背が高く、整った顔立ちをしている。さすがにちょっとドキドキしてしまうが・・
――しかし、この男・・
改めて顔を見てみると、昔どこかで会ったような気がするのだ。
ついこの間、初めて会ったはずなのに・・昔からこいつのことを知っていたような気がする。
こいつの性格はともかく・・よく見れば、はっと目を引くほど整った外見をしているので、どこかで会っていれば必ず記憶に残っているはずだ。なのにどうしても思い出せない。それとも他人の空似なのか・・
「おい、なに人の顔をじろじろ見てるんだ・・ひょっとして見惚れてたのか」
「いや・・・全然違うんですけど・・」
ラースの軽口にティアは、はっと我に返ると冷めた気持ちになる。
いけない・・誤解をされたら大変だし、めんどくさいことこのうえない。とりあえずティアは話題を変えることにした。
「とにかく・・そんなことはどうでもいいの。それよりもフィヌイ様は犬っころじゃないの!前にも話したけど、高貴でとても崇高なこの国の主神であり、とても偉い神様なのよ」
ティアの足元にいたフィヌイは、今までほったらかしにされて、非常に面白くなさそうに頬を膨らませていたが、とたんにご機嫌になる。
そうだそうだと、言わんばかりに耳をぴんと立て目を輝かせたのだ。
「ああ、わかた、わかった。・・・それこそ、そんな話どうでもいいんだが・・」
頭をかきながらめんどくさそうに答えると、最後の方は呆れたように、ぼそっと呟いていた。
「まあ、それはともかくとしてだ。ティア・・俺はしばらくの間、お前たちと一緒に旅をする。理由は話せねえが、これは決定事項だ」
「なに、それ・・」
ティアは、ぽかーんとしたのだ。
それに、仮に断ったとしてもこの男のことだ後方から尾行するつもりだろう。
「ちょっと、待って。理由は話せないってどういうことよ!」
「今は言えないが・・いずれ時期が来たら必ず話す。それだけは約束する」
「悪いけど、私ひとりじゃ決められないわ。相談するからここで待ってて」
そのことだけ伝えると、フィヌイ様と一緒に少し離れた場所に移動し、相談を始めたのだ。




