本来の場所へ
怒っているラースをなんとか、どうどうと宥めるとティアはどっと疲れがでてしまう。
問題が解決するどころか、なんかさらにややこしい事態に陥っているような気がする・・
当のフィヌイ様は、大きな狼の姿で気持ちよさそうに伸びをして、一仕事終えたよう顔で伏せしてくつろいでいたのだ。
さらに草地を見れば、フィヌイ様に適度にボコられた人たちも転がっているし、
この惨状を見るとティアは思わずため息がでてしまう。
さすがにこのまま見なかったことにして、素通りするわけにもいかないし、すぐに治療へと取りかかったのだ。
「どうして・・我々を助けてくださるのですか?」
ようやく最後の一人を治療し終えたころを見はからい、おずおずとネーテンは尋ねてきたのだ。
今までの張り付いたような笑顔は消え、戸惑った表情を浮かべている。
何を今さらと言うようにティアは呆れたような顔をすると、
「そんなの決まっているじゃないですか・・このまま放っては置けないでしょ。私に、あなた達を無視したまま旅を続けろと?」
「俺は別に、無視したまま先に進んでもよかったんだぜ。第一面倒だし、あいつだってそう思っているんじゃないのか?」
――うんうん、今回に限ってはこいつの言う通り。治療なんて魔力の無駄遣いで勿体ないてっば!
外野からの声が、いろいろ聞こえてくるが・・
なぜ、こういう時に限ってラースとフィヌイ様は気が合うのか。私はぴくぴくと顔が引きつってしまう。
「それに、もしこのまま放って置いたら、あなた達がどうなったか心配で、私としては安心して夜眠ることもできませんから」
「お前・・そんなに繊細な神経の持ち主じゃないだろ・・」
またもや、失礼なことを抜かすラースのつぶやきはこの際、聞かなかったことにする。
「とにかく、このまま放っておいても目覚めが悪くなるので、勝手に治療させていただきました!」
「我々を赦すと言うのですか・・・貴女が神殿で下働きをしていた頃。アリアからひどい扱いを受けていたのに、見て見ぬふりをするどころか、アリアの味方をして助けもしなかった我々を・・」
「それは・・まあ、そうですね。許す許さないは別として、私はあなたたちがそこまでひどい状態になることを望んではいませんから。
そりゃあ、今でも昔のことを考えると正直、頭にはきますよ。でもそんなことより、どうしたらここから先、私が幸せな人生を歩めるかを考えたほうが断然いいし、あなた達に仕返しをすることを考える方が、時間の無駄遣いですから。
私としては、あなた達が聖職者として本当に人々を導いてくれることを心から望んでいます」
ネーテンは、はっとしたような目を見開くと静かに顔を伏せる。
「それともう分かっているとは思いますが、私に危害を加えようとすると主神であるフィヌイ様の加護が発動します。今のように大けがをすることになるので、今後は十分気をつけてください。
あと王都の神殿についてですが・・聖女や主神が神殿にいなくとも、あなた達が本当に民のためを想い、心を尽くせばまた神殿には人が戻ってきますよ。
私はこのままフィヌイ様の神託のままに旅を続けますので、どうかご理解ください」
そう言うと、ティアはぺこりっと頭を下げたのだ。
「・・わかりました。そのお言葉、我ら深く心に刻んでおきます」
ネーテンはそれだけを言うと、深く・・本当に深く、他の神殿の関係者たちと頭を下げる。そして、彼らは王都の神殿に向かい旅立っていったのだ。
ティアはようやくひと段落し、今度こそほっと息をつくが、
「ようやく、帰ったなあいつら・・・」
この男の言葉で、もうひとり厄介な奴が残っていたのを思い出したのだ。




