神からの天罰?
「お前って本当に面白い奴だよな。神殿の奴らをここまでコケにするとは・・クックク」
とか言いながら、ラースはお腹をひくひくさせ目には涙を浮かべて笑っている。
こいつ、相変わらず失礼な奴だな――!
私は神殿のことを、いくらなんでもコケになんてしていないぞ。ただ、思ったことを口にしただけで・・
お前がそんなこと言ったらネーテンさんが誤解するだろ――とティアは思ったが・・
正面のネーテンを見れば、力なく膝と両手を地面につけ肩を落とし、ひどく落ち込んでいた。
「あっ・・・」
どうしよう・・なんか傷ついているみたい。
ティアは一人であたふたとしていると、ネーテンはむっくと無言で立ち上がり。
「穏便に進めるつもりでしたが、仕方ありません!ティア様には、強制的に神殿に戻ってもらいます」
ネーテンは、懐から布に包まれた小石ほどの球体を取りだすと、勢いよくティアの足元の地面めがけ投げつけたのだ。
その瞬間、痺れと眠気を誘う白い煙が辺りへと広がる。
「しま・・油断し・た・・!」
ラースの驚きの声が、辺りに響き。
ティアとしても、まさかこんな方法を使うとは思ってもいなかったので完全に油断していたのだ。
煙を吸い込んだ途端、身体の感覚がマヒし意識が遠くなっていく。起きなければいけないのに、いつの間にかうつらうつらと眠くなっていったのだ。
微睡の中、修道女のローブになにかが触れたと思ったその瞬間――!
シュウッ――!!
強烈な突風がティアのすぐ横をかすめる。
「・・?」
なにか重たいものが、吹き飛ばされ落下する音。複数の人間の驚愕や混乱の声、悲鳴のようなものまで聞こえる。
ガルルルッ――!!
獣の唸り声?いやこれはフィヌイ様の声か・・とにかく色んな声や騒音が、うつらうつらと微睡の中で聞こえていたのだ。
そして・・いつの間にか騒ぎもおさまり、やっと眠気もとれティアは立ったままゆっくりと目を開けてみると、
そこには大きな白い狼の姿で、何事もなかったように前足を舐めてお手入れをしているフィヌイ様の姿。
相変わらず、大きなフィヌイ様も凛々しくって可愛いなあと思っていると、
私が目が覚めたのに気がついたのか、尻尾を振りながら、
――目が覚めたんだね。とりあえず、ティアを連れ去ろうとした奴ら全部片づけておいたよ。
「へ?」
なんか無邪気なことを言っている。
フィヌイ様の言葉に横を振り向くとそこには、十人以上の人間が道の端にある草地に倒れていたのだ。
しかも、苦痛のうめき声をあげているし・・
よく見れば、ネーテンさんの他にも神殿の関係者とおぼしき人たちも草地に転がっている。
「いつの間に、こんなにたくさんの人が・・」
「そこの草地や木の陰に隠れていたんだろうよ。ずっと前から気配がしてたからな・・」
その問いに答えたのはラースだった。なぜか彼もボロっとしており、いくつもの擦り傷を負っていた。
「お前がおとなしくついて来ればそれで良し。そうでなければそこに転がっている神官の合図で、お前を王都の神殿まで連れ去る予定だったんじゃないのか?」
ラースが指さす先に視線を向ければ、少し離れた所に黒い馬車が待機していた。
だが、私たちの視線に気づくと馬車は一目散に逃げて行く。どうやら仲間をあっさりと見捨てて逃げたようだ・・
「それよりも、ティア!どうせまた、あの犬っころの仕業なんだろ・・!」
「え~と、なんて言うか・・アハハハ・・」
ラースの追及にティアは目を泳がせ、曖昧に力なく笑うしかなかった。
おそらくフィヌイ様が大きな狼の姿で、尻尾で叩く、前足で払う、頭突きなどをして少し暴れたのだろう。
手加減はしてくれたみたいなので死者は出てはいないし全員、命に別状はなさそうだが・・複雑骨折やあばらが何本も折れていたりと、かなり痛そうではある。
「おい、あの犬っころ・・どさくさに紛れて俺にも攻撃を仕掛けてきたんだぞ!何とかしろよ。お前、飼い主だろ!」
――あ~あ、どさくさに紛れてボコボコにしてやろうと思ったのにあてが外れちゃった。こいつって思ったより勘がいいんだね。
フィヌイ様を見れば、今度は残念な表情でお座りしてしれっと毛づくろいを始めている。
ラースの苦情にティアは苦笑いを浮かべ、なんとか落ち着くように彼を宥めたのだ。




