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【書籍化&コミカライズ化】もふもふの神様と旅に出ます。神殿には二度と戻りません!  作者: 四季 葉
第三章 追撃者たち

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白狼の咆哮

「フィヌイ様・・!ど、どうか落ち着いてください!こいつの無礼は私が謝りますから」

――ティアが謝る必要なんてないよ・・こいつが悪いんだから!


見ればフィヌイ様は、頬を小さく膨らませぷりぷりと怒っている。どうやらご機嫌斜めになってしまったようで、


不用意にフィヌイ様の名前を口に出すんじゃなかった。こんなややこしい事態に陥るなんて~

私のバカバカと、ティアは頭を抱えてその場にしゃがみ込みたい気分になるが、



どうやらラースは、聖女の存在は認めてはいるが、神の存在など信じていないタイプの人間のようだ。


ティアとしては下働きとはいえ神殿での生活が長く、出身の孤児院も神殿が運営していたのでみんなが信心深くそれが当たり前だと思っていた。だから、てっきり聖女と神様はセットで一般にも認知されていると思っていたのだ。


しかし、現実はそうではなかった。

よくよく考えれば、神様の声を聴くことができるのは基本、聖女だけだ。たまに神様の真の姿を見たり、神託を受ける者もいるが大概は嘘や幻覚、幻聴がほとんど。

ごく稀に・・真実が混ざっていることもあるようだが・・


見たことのない存在を信じることができない者は――この世の中、決して珍しくはない。


でも、ここで今さらフィヌイ様の存在を否定するのもおかしいし、どうしたらいいのやら・・

しかし、いくら考えても良い解決策は見つからない。

もう今はこの問題はそのまま棚上げし、一切触れないことにしよう。とりあえずは話を進めることだけに集中しようとティアは思ったのだ。


「わかりました。その件についてはもういいです。ただ、ひとつ教えてください。今から脱出をするためにフィヌイ様が行動を起こしてくれるのはわかりますが、どのようなことをするのか教えてもらえますか?」

――え~、説明するのめんどくさい。

「お願いします!!」


ティアの有無を言わせぬ勢いに、フィヌイはしぶしぶ説明をする。


――今から行うのは、広範囲に影響を及ぼす特殊な魔法なんだ。

大地に広がる磁場のエネルギーつまり魔力をかき乱すもので、ふつうは目には見えない。普通の人間には影響はないし、範囲の指定も商業都市ディルぐらいに限定するよ。効果としては魔力を操る人間にとっては大ダメージになる。

「具体的には?」

――う~ん、そうだね・・。中枢神経に影響をあたえるから、二日か三日ぐらいはまともに歩けなくなって、寝たっきりになる。魔力を操る人間は魔力の流れにも敏感だから、これをやると簡単に平衡感覚を失ってしまうんだ。

「ええと・・つまりは、目がぐるぐる回ってまともに起き上がれないってことですか?」

――簡単に言えばそんなところ。だから命には別状はないよ。


なるほど、話が見えてきた。

・・先ほどのラースの話では、ウロボロスの構成員は魔力を扱えるものが多く、フィヌイ様の攻撃でディルの街にいる暗殺者のほとんどは戦闘不能になる。

もし他に無事な構成員がいたとしても、命令系統がおかしくなり統制が取れなくなるだろう。その隙に、商業都市ディルを脱出すればいいわけか。

だが、ふとティアはあることが気になったのだ。



「ん? あの~ ラースは大丈夫なんですよね」

――こいつのこと? その辺の地下水路で二日ぐらいは転がっているじゃないの。


やっぱり、こいつも攻撃魔法が使えるのか・・いや、さすがにその辺に転がしておくのは可哀そうだし・・

ティアはため息を吐くと、


「ラース。フィヌイ様が今から強力な広範囲魔法を使うから、耳を塞いで。説明は後でするから」

「ああ、わかった・・」


ちょっと戸惑ってはいたがラースは素直に言うことを聞き耳を塞いだのだ。


――ティアったら、こいつに教えたらダメだよ!

「いくら命に別状がなくても・・ウロボロスの暗殺者を何人か倒しているし、転がっている間に他の構成員に殺されてしまったらさすがに・・」

――そんなことで、簡単にこいつは死んだりしないよ!もう、ティアは人が良いんだから、


少しの間フィヌイ様は、頬を膨らませぶつぶつと愚痴っていた。でも渋々だが納得はしてくれたようだ。


そして、フィヌイ様は呼吸を整え座り直すと――背筋をぴんと伸ばし。その途端、子狼の姿だが威厳のある雰囲気へと変わる。


ティアも耳をしっかり塞いだ、その直後だった。


顔を上へと向けると狼の遠吠えのような姿で鳴き始めたのだ。


『ワォォオオオオォォォォンン――』


声は聞こえないのに、周りの大気がピリピリと摩擦を起こしているのがわかる。静電気の光りのようなものもあちらこちらで見えている。


しばらくそうやって耳を塞いでいたが、ふと気がついた時にはフィヌイ様がいつもの愛らしい顔でこちらを見ていたのだ。

ティアは、耳を塞いでいた両手を静かに下し、

この国の主神であるフィヌイ様の力の大きさの一端を、初めて垣間見たようなそんな気分だった。


それから私たちは地上にでると、その日のうちにディルの街を脱出したのである。

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