噛み合わない会話
「あの~ フィヌイ様、いつからそこにいたんですか?」
――う~ん・・少し前からかな。
ちらっとラースの顔を見ると、すぐに顔を背けティアへと視線を向ける。
――複数の殺気を放っていた連中が、後ろからも近づいていたのは気づいてたんだけど、後ろの連中は取りあえずこいつに任せてみたんだ。まあまあの腕前みたいだし、少しは時間稼ぎになったみたいだね。
「時間稼ぎって・・襲撃はとりあえず今日のところは終わりじゃないんですか!?」
――うん、そうなんだよ。あの暗殺者の集団、結構人員をこの街に投入しているみたいでね。ディルの街に大勢の気配を感じるんだ。
ふさふさな尻尾をふりふり、お気楽な口調で緊張感がないことを言う。
「それじゃ、これから一体どうしたら・・なんとか、ここから脱出しないといけないのに・・」
――ふふふふ・・えっへん!だからここに来たんだよ。ティアも初めてにしてはよく頑張ったからここからは僕に任せて!あっという間に片付けて見せるからね!
子狼の姿だが、フィヌイ様は自信に満ち溢れた顔をしていた。
だが、そんな会話の空気をうち破ったのは――
「おい・・ちょっと待て! お前、その犬っころとなに話しているんだ?」
ラースの待ったの声が掛かり、
いけない!――こいつの存在をすっかり忘れていた。
ティアはちらっとフィヌイ様に視線でお伺いをたててみる。仕方ないなあ~ と、フィヌイ様は頷き承諾してくれたのを確認する。そして、改まってコホンと咳をすると、
「ラース――隠しても意味はないし本当のことをいうけど・・・絶対に他の人には言わないで。
こちらは、我が国の主神フィヌイ様。くれぐれも失礼がないようにしてね」
当のフィヌイ様は、子狼の姿でちょこんとお座りをしてくれぐれも敬うんだぞという感じのどや顔をしていたのだ。
「は・・? なんだって、俺の聞き間違いか? もう、一回言ってみろ」
「だから、この方は主神のフィヌイ様なの! と~ても偉くて尊い神様なのよ!」
「こいつが・・? まったく威厳のない間抜け顔だぞ。かなり盛ったとしても 聖獣か幻獣の類がせいぜいだろ。なんかの間違いだ」
ラースは神様ではないとばっさり切り捨てると、失礼にも指先で子狼姿の神様を指差したのだ。
フィヌイ様は明らかにみるみる不機嫌な顔になり・・普段の愛らしい丸い目から、ラースのことをあきらかに逆三角形の怒った目で見ていたのだ。
「何言ってるの。間違いなく神様だって!」
ラースは憐れみの目を向けると、ぽんぽんとティアの肩を軽く叩く。
「わかったから。ティア・・お前、単純だから騙されているんじゃないのか?」
「いや・・本当にそうじゃないんだって・・」
噛み合わない、不毛な言い争いに終止符を打ったのは、
――ティア! こんなバカの相手なんかもうしなくてもいいよ!それよりも早くここ脱出するよ。耳を塞いで、これから、大規模な魔法を使うからね!
突然、フィヌイ様の声が頭に響き。その声は完全に、ぷんすかと怒っていたのだ。




