朝霧の旅立ち
「待ってください!いきなり聖女と言われても・・なにがなにやら」
ティアは、思わず両手で頭をかかえていた。
これが夢でないことは、はっきりと理解はしたが・・
眠気だって今の言葉で吹き飛び、かえって卒倒しそうだ。衝撃が大きすぎる。
「あの・・フィヌイ様、質問があるんですが・・」
――どうしたの?
フィヌイは不思議そうに小首を傾げ。
「私、特に美人でもないですし・・地味ですよ。寸胴体型ですし、聖女様って美人って決まっていますよね」
あらためてフィヌイは青い瞳で、上から下までティアを見つめる。
――ふ~ん、確かにティアってお子様体型だね。けど、気にする必要ないよ。
お、お子様体型・・!
別の意味で、ティアに衝撃が走る。年頃の女の子には堪える。本当に・・
ティアは今年14歳になる。焦げ茶色の長い髪に、榛色の瞳。どこにでもいるような地味な顔に、寸胴体型。もちろん、美人という言葉には程遠い存在だ。
――へんだよね。今まで聖女って、見た目で選んだことないけどな・・
さして興味なさそうにフィヌイは答えていた。
ティアの知識では、聖女を選ぶ基準は前の聖女が亡くなったとき、神殿に神託が下るのだ。神の導きに従い指定された場所に神官が赴き、新しい聖女を神殿へと迎える。
現在、聖女であるアリア様も確かそうだったはず。
ちなみに歴代の聖女の姿絵を見たことがあるが、みんな美人ぞろいだ。
・・・?
そこでティアはあることに気づいた。
「あれ・・・? アリア様がいますよね。聖女って、確か・・一人のはずじゃ・・」
――アリアの資格は・・たった今、はく奪したよ。昔は心の優しい子だったのに本当に残念だよ。あの子は聖女になってから、変わってしまった。
厳しい声だった。きっと心の中ではいろいろな思いがあるのだろう。
でも、私の気持ちは最初から決まっている。
「すみません。やっぱり私、聖女にはなりたくないんです。私も、アリア様みたいに性格悪くなったら嫌だし、あの神殿の人たちとは、今後一切関わり合いになりたくないので・・」
その言葉にフィヌイの表情が、ぱあっと明るくなる。
――なんだ、そんなことか。僕も神殿から飛び出してきたところだから、一緒に旅に出ればいいよ。聖女って神殿にいる必要はないんだよ。これは人の都合なんだからね。
フィヌイは、目を輝かせると嬉しそうに尻尾を振り、跳びまわっていた。
朝の霧が晴れ、白い毛に光が反射して金色に輝いてとても綺麗だ。
戸惑いはあったが、こういう人生も悪くないと思わず、ティアに笑顔がこぼれたのだ。