厄介ごとの予感
あれから数週間後のこと――
ティアは街のとある食堂で、遅めの昼食をとっていた。
一通りの買い物も終えてから立ち寄ったので、時間が外れていたこともあり、中には数組の客がいるのみ。
そして、足元には子犬のフリをしているフィヌイ様の姿もある。
ペット入店可の店でこんなにも落ち着いて食事がとれるのは、この街に来て片手で数えられるぐらいだろうか・・?
ディルの街は大都市ということもあり、大概の飲食店ではペット入店お断りというところも多い。
それを街に来て始めて、従業員さんから聞いたときにはやっぱりなあ~とティアは思ったが・・
子狼姿のフィヌイ様は違っていた。小さく頬をふくらませ怒っていたのだ。
その場はなんとか、フィヌイ様をなだめて落ち着いてもらったが、宿屋に戻ってからも怒りは収まらないようで、
――僕はペットなんかじゃない・・!純白のもふもふの毛並みと青い瞳が目に入らないのか!神様なんだぞ・・!お前らの目は節穴なのか・・!
とか言いながら子狼の姿で布切れを振り回し、一人(?)で荒れていた。
小さい姿で、部屋の中を暴れまわっていたので大した被害はでなかったが、これが大きな狼の姿なら・・宿屋は完全に崩壊していただろう。
最後には、あいつらひどいんだよ――と泣きついてきたのでティアはよしよしと気持ちが落ち着くまで慰めたのだ。
そんな姿も可愛いなあと思いながらも、ティアはつい和んでしまっていた。
まあ、そんなこともあってか食堂に行くときはフィヌイ様は渋々ながら姿を消してついて行くようになったのだ。
しかし、店に入るのはどう見ても一人だけ。
相当な量を食べて帰るので、ちょっと目立ってしまっていた。本当は、フィヌイ様も姿を消してご飯を食べているので、そう見えるだけなのだ。たぶん・・
だが、そんなフィヌイ様も今日はご機嫌な様子で食事をしている。
久しぶりに穏やかな気分でティアも、運ばれてきたばかりの大皿のポテトフライに手を伸ばし、もぐもぐと食べていると、
「よお、久しぶりだな!」
聞いたことのある声がしたのだ。
そう・・そこにいたのは黙っていれば端正な顔立ち。口を開けばそうは見えなくなる。正面からやってくる長身で黒髪の若い男は間違いない。
「ラース!」
ティアは思わず素っ頓狂な声をあげたのだ。
「・・取りあえずこの間のこと、お礼は言っておくわ。本当にありがとう」
「ほお、ちゃんと礼が言えるとは意外だな。まあ、それはいいとして・・こんなところで会うとは奇遇だな」
とか言いながら許可もなくティアの正面、空いている席に勝手に座ったのだ。
「ちょっと・・」
「ぎゃう・」
途端に、ティアとフィヌイは嫌そうな顔をする。
「お前ら、揃いもそろって同じような顔するなよ。やっぱりあれか、一緒にいると犬っころも飼い主に似てくるんだな・・」
アハハハと呑気に笑い、気がつけばオーダーを取りに来た店員さんに、メニューを適当に注文していたのだ。
こいつ・・私たちを探していたんだな――とティアは心の中でそう思い、
何故だが、厄介ごとの予感がしたのだ。




