とりあえず解決へ
ティアは鉄格子の隙間からフィヌイから鍵の束を受け取り、ラースに渡すとあいつは難なく牢の鍵を開けたのだ。
牢の外へとでると隅っこに置かれていた自分の荷物も取り戻し、子供たちを引き連れてここから脱出することにする。
前を歩く子狼姿のフィヌイ様に案内され、先ほどの宝物庫の中に、今度は扉からなんなく入るとティアは聖遺物が入っている銀の小箱を回収したのだ。
そして、自分の懐にしまおうとしたとき――
「おい、それを盗むつもりか?」
廊下で子供たちと一緒に待っていたはずのラースの姿がそこにはあったのだ。いつの間にか宝物庫の中に入ってきたらしい。
「――失礼ね、私はそんなことはしない。本来の持ち主に返すためにここから持っていくのよ」
「本来の持ち主・・?」
「王家の所有だって聞いたわ。だから返しにいくの」
「そいつは俺が預かる・・。お前が持っているとかえって怪しまれる。これは、俺から持ち主に返しておく」
気がつけば、いつの間にか小箱をティアから取り上げると、ラースは箱の中身を慎重に確認したのだ。
「ちょっと・・」
「俺はな、王城にも潜入したことがある。こんど王城にいったとき、それとなく置いといてやるよ」
半ば強引な態度に、ティアは不満そうな顔をする。
――まあ、いいんじゃないの。こいつに任せておけば、ティアがわざわざ危険を冒すことはないよ。
意外なことにフィヌイ様は、この男の行動を容認したのだ。
神様がいいと言うなら、これ以上ティアが口を挟める理由など思い浮かばない。
「そういえば、お前はこの屋敷を出た後どうするんだ」
「もちろん、この街の衛兵に通報してから、責任をもって子供たちを家に帰してあげなくっちゃ」
「悪いが、それも俺に任せてはもらえないか?」
「どうしてよ」
「俺は、商業都市ディルを束ねるギルドマスターのうちの一人の依頼で動いている。
アドラ・ネーシュの悪評は有名だが、奴はこれまで尻尾をださなかった。もし、国に知られれば自治権を取り上げられる危険な案件でもあるし、いろいろと厄介な事態になるおそれもある。
正直、国に知られる前にこちらで対処したいというのが依頼主の考えだ。おまけに商売敵を正当な理由で潰すこともできるしな」
なるほど。この男が屋敷に侵入したのはそんな理由だったのか・・
ティアは、ちらっと視線を送るとフィヌイ様は静かに頷いていた。許可が下りたのだ。
「わかったわ。貴方に任せることにする。そのかわり私たちのことはこの街の人たちには言わないで。それと子供たちの安全は保障して、必ず無事に家まで送り届けてあげてね」
「ああ、いいぜ。誰もこんな話、信じないだろうしな。ガキどもが話したところで、たいした障りにもならないだろう」
不敵な顔で、この男は笑ったのだ。
こうして、この出来事は解決へと至ったのだ。
アドラ・ネーシュは見事に失脚し、捕まっていた子供たちは無事に家族のもとへと帰っていったのだ。




