白い子犬
――ティア、お待たせ! 助けに来たよ。
子狼の姿だが、白い子犬のフリをしてフィヌイ様は現れた。
もちろん、口には牢の鍵の束をくわえている。
そして・・近くを見れば牢番は、こっくり、こっくりと椅子に座りなぜか眠っていたのだ。
――ん? ・・なんか大人数になってるけど、まぁいいか。まとめて逃げだせばいいよね。
もふもふの愛らしい姿で首を傾げ、牢の様子をじっと見ていたが、すぐにお気楽に答えたのだ。
だが、その時――
「おい、ティア。お前・・その犬ころのこと、フィヌイ様とか言ってたよな・・」
ラースの鋭い言葉にティアはぎくりとする。
「フィヌイっていえばあれだよな・・この国の主神フィヌイ」
しまった・・うっかり口を滑らせちゃった―― 内心、非常に慌てていると助け舟は意外なところからやってくる。
「そんなの、神様に決まっているじゃない! 神様が子犬の姿で助けに来てくれたのよ!」
子供たちの一人、元気な女の子が無邪気に断言する。
実際、本当にその通りなのだが・・ここぞとばかりにティアも子供たちに話を合わせているフリをして、
「そうよ! フィヌイ様が助けに来てくれたの。みんなの願いが通じたのね、本当にありがたいことじゃない」
「キャウ・・キャウ」
フィヌイ様もそれに合わせ子犬のフリで頷いてくれている。
「まあ・・別にいいけどな・・」
彼は不信感を残しながらも、それ以上は何も言ってはこなかった。
「だが、ここから先はどう逃げるつもりなんだ。間抜けな牢番は眠ってはいるようだが・・ガキどもをぞろぞろ引き連れて外まで逃げきれるのか?」
「え~と・・」
ティアが言葉に詰まっているとフィヌイが語りかけてくる。
――それは大丈夫。 屋敷の人間はすべて眠らせてあるから、夜が明けるまで起きてくることは絶対にないよ。その間に外に逃げちゃえばいいんだよ。
さすがはフィヌイ様だ――そんな凄いことを難なくやってのけるなんて。
神様の加護により屋敷の人間は朝まで起きてこないことを、ティアは自信をもってラースを始め、みんなに伝えたのだ。
ティアと子供たちから、尊敬の眼差しを向けられフィヌイ様はとても満足そうな顔をしていたが、
ただ一人、ラースだけが胡散臭そうにフィヌイを見つめていたのだ。




