みんなで励ましあう
ラースは、じっとティアのことを見つめると唐突に、
「なるほどな・・つまりは一緒に来てはいたが、見つかってお前は牢屋、白い獣の犬っころはどこかに捕まっているってわけか」
「なんでわかったの~!」
「お前、分かりやすいんだよ・・顔にかいてある」
ティアの絶叫に、ラースは冷静に答えたのだ。
「あの白い獣、お前よりは格段に高く売れそうだからな。チラッと見ただけだが、あれは相当な逸品だ。なにせ縁起物だからな」
「ど・・どういうこと? あの子はただの白い子犬よ」
「リューゲル王国の主神フィヌイが現世に現れた姿。つまりは神の化身――。ああいう白い毛に、青い瞳の獣はそう呼ばれている。おまけに希少だから高く売れるのさ」
「うっ・・」
なんかこの流れだとフィヌイ様が神様だって気づかれそう。とにかくこの男の前では、発言には本当に気をつけないと・・
「そ、それはただの言い伝えでしょ」
「まあな。まさか本当に神がこんな聖女とは思えないような、地味で変な小娘と一緒にいるわけないよな。ハハハハ・・」
「うっ・・うるさい・・」
フィヌイ様が神様だと気づかれていないことには安心したが・・なんかだんだんと腹が立ってくる。
くっそー、確かに私は地味だし聖女らしくないですよ。悔しい~こんな奴にこんなこと言われるなんて・・
「まあ、冗談はこれくらいにして・・これからどうする。ガキどもがいることだし、少しは本気で考えないとな」
「・・?」
その時、くいくいと誰かがティアの服の裾を引っ張ったのだ。
「おねえちゃん・・もうお顔、痛くないの」
ティアは下を向くとそこには小さな女の子がいたのだ。それだけではない、周りを見回せば五、六人の子供たちが同じ牢に入れられていたことに初めて気づいたのだ。
「ティアお前さ、ガキどもに感謝したほうがいいぞ。お前が牢に放り込まれたとき、こいつらがお前のこと心配していたから・・俺がわざわざ呼吸がしやすいように、お前を仰向けにしてやったんだからな」
「だって、あのままだと顔が痛くなるし呼吸もできないから。でも、このおじさんもお姉ちゃんのこと心配していたよ」
これは、少し大きい男の子の言葉だった。
「みんな、ありがとう。心配してくれたんだ・・ラースもありがとう。口が悪いだけじゃなかったんだね」
「お前、一言多いぞ・・」
周りから、明るい笑いがおきる。
子供たちから話を聴いてみると、みんな騙されてここに連れてこられたようだ。
早く家に帰りたい――。お母さん、お父さんに会いたいと口々に訴えて泣いている子供もいる。
ティアは子供たちを明るく励ましながら、絶対に助けが来るから大丈夫だと励まし続けた。
ラースも口は悪いが、子供たちを気遣っている様子を見せていた。もしかしたら、それほど悪い人間ではないのかもしれない・・
あいつの話では、アドラの人買い噂はどうやら本当で・・牢番と屋敷の者が、牢に入れられている子供たちを外国に売り払う、話をしていたのを聞いたそうだ。
こんな奴らの思い通りになど、なってやるものかとティアは心を奮い立たせる。
なんとか、ここから子供たちを逃がさなければと懸命に考えていると、
「キャウ!」
「本当の神様だ・・!神様が助けに来てくれたんだ!」
牢の外から聞き覚えのある小動物の声がしたのだ。そして子供たちの中の誰かの明るい声も聞こえ。
「キャウ・・キャウ・・」
その声に反応するように、小動物の鳴き声がさらに響く。
ティアも牢の外を見ると・・そこにいたのはやはりというべきか、
もふもふの白い毛をした青い目の愛らしい子犬が、牢の鍵を咥えて目の前に座っていたのだ。ぱたぱたと人懐っこそうに尻尾を振っている。その姿も、頼もしくっていつもにもまして凄く可愛い!
「フィヌイ様、来てくれたんですね!」
思わずティアが発した声に、ラースは静かに目を細めたのだ。




