思いがけない再会
目を薄っすら開けると、石で造られた湿った天井が見える。――そして、寝返りをうてば、右には鉄格子が見えたのだ。
「・・・」
そうか。
・・ここは牢屋の中なのかとティアはぼんやりと考えていた。それが実感として湧いてくると、涙がじんわりとあふれてくる。
これから私はどうなるのか・・フィヌイ様は無事なんだろうかといろんなことを考えてしまう。そして悲しい気分になってしまうのだ。
だが、しんみりとした気分に浸っていると、ふいに声を掛けられたのだ。
「よお、お仲間――目が覚めたみたいだな!」
聞いたことのない、おまけに場にもそぐわない明るい男の声だ。
ティアはむくっと起き上がると溢れそうになっていた涙をふきふき、声のした方に顔を向ける。
その瞬間、首の付け根となぜか顔面、特に鼻の頭に痛みが走ったのだ。
「痛っ・・・!」
思わず顔をしかめて両手で顔を抑えていると、
「まあ、そうだろうな。牢屋に入れられたとき、顔面から床めがけ見事に着地していたからな。そりゃ痛いわ。アハハハハ・・」
「う・・うるさい・・」
暗闇の中、お気楽に笑っている男にティアは段々と腹が立ってくる。
「そもそも、あんた一体誰なの!それに、お仲間ってどういうこと?」
「俺の名前はラース。お前も俺と似たような盗み目的でアドラ・ネーシュの屋敷に侵入したんだろ。だから、同じ侵入者どうしってことで、お仲間って呼んだんだよ。間違いないだろ?」
「うっ・・」
そう言われると返す言葉がなかった。
やっと目が慣れてきたのか――ぼんやりとしたシルエットでしか認識できなかった男の姿が徐々に見えてくる。
長身の若い男で、年は二十代ぐらい。黒い髪と同じ色の瞳。細身だがバランスがとれた身体つきで、鍛えているように見える。そしてとても整った顔立ち。だが、この口調では性格はあまり良いとは言えないだろう。
待てよ・・この人どっかで見たことあるような・・男の顔をじーと見ていると
「あぁ・・!あの時、屋敷を見ていた不審な男・・!」
そうだ。フィヌイ様と初めてこの屋敷の前に来たときに、なぜか気になっていた人物だ。
「お前なぁ・・。人を不審者扱いする前に名前ぐらい名乗れないのかよ」
確かに。ここにきて自分の名前を言っていないことにティアはようやく気づいたのだ。
「ティアよ。――ティア・エッセン」
「それじゃ、ティア。言っておくが目立っていたのはお前の方だ。子犬のような白い獣を相手にぶつぶつ言いながら百面相をしていただろう。・・どう見ても不審者はお前の方だったぞ」
「うっ・・」
途端に、ティアの顔が真っ赤になる。
私、街中でそんなことをしていたんだ。は、恥ずかしい・・
「そういえば・・今日は白い獣は一緒じゃないんだな?」
ラースは周りを見回しながら尋ねたのだ。
そうだ。フィヌイ様って神様だし冷静によ―く考えてみればおそらくは無事なんだよね・・今、どうしているんだろう?
ティアは、暗い牢屋の中でフィヌイのことを思ったのだ。
「くしょん・・!」
――ん・・誰かが僕のことを噂している。ティアかな?
フィヌイといえば明るい部屋の一室。小動物を入れる小さなゲージの中に閉じ込められていた。
幸いティアは無事であることは感覚としてはわかっている。そうでなければ、すぐにでも脱走しティアを助けに向かっていたが・・
無事だと確信がある以上、はっきりと確かめたいことがある。しばらくは様子をみるため、白い子犬のフリを続けることにしたのだ。
丸くなり耳を伏せてぷるぷると震えて、怯えている子犬のフリをしながら外の様子を伺ってみると、
蝋燭の明かりの中、ちょうど二人の男が密談を始めたところだった。




