追憶の予兆
箱のふたを開けた瞬間、光の波紋が部屋中に広がっていく――
まるで青く優しい光が、揺らめいているようだ。
それは、長い年月が経っているとは思えないくらいの優しい輝きで、
「これが、フィヌイ様が探していた聖遺物・・」
――懐かしいな・・持ち主はとうの昔に亡くなっているのに、この光は変わらない。
そこには青い宝石が埋め込まれている、古い飾りボタンがあったのだ。
ティアは青い宝石に、まるで魂を持っていかれたように見惚れていた。そしてあることに気づいたのだ。
似ているのだ。フィヌイ様の青い瞳の色にそっくりだ。
――ティア、少しいいかな。銀の小箱を床に置いてもらえる・・
フィヌイ様の言葉にはっと我に返ると、ティアは銀の小箱を床へとそっと置いたのだ。
どうやら少しばかり、ぼんやりとしていたらしい。
それにしても不思議な気分だ。飾りボタンの本来の持ち主の心にふれたような、なぜか懐かしい気持ちになる。
フィヌイ様は箱の中の青い宝石に、僅かに鼻先をつけると口の中でブツブツと呪文のような言葉を呟いていた。
しばらくの間こうしていたが、やがて静かに銀の小箱から離れたのだ。
再びティアが小箱を持ち上げたときには、中には宝石が埋め込まれた古い飾りボタンがあるだけで。
先ほどのような優しい揺らめきはすっかりと消えていたのだ。
――さってと、これで僕の神力は無事に回収することはできたよ。その後だけど、ティアはどうしたい?なんなら貰っちゃう。
ちょこんと床にお座りをすると、悪戯ぽくフィヌイは尻尾を振りながらティアに問いかけてきた。
ティアは静かに被りを振ると、
「聖遺物の・・本来の持ち主に返してあげましょうよ。この子だってそれを望んでいるそんな気がするんです。それに、私なんかには分不相応ですしね」
笑いながらそう答えたのだ。
――ティアだったら、そう言ってくれると思ったよ。
フィヌイは優しい目をしてそうこたえたのだ。
だが、その時――
「・・?!」
ふと、人の気配がしたようなそんな感覚がよぎる。ティアは思わず後ろを振り向こうとしたそのとき、
「――!!」
首の後ろに強い衝撃を受けたと思った瞬間・・視界が暗転したのだ。
床にどさっと倒れ、そのときに僅かに声を聞いたのだ。
この白い獣は・・高く売れそうだな・・閉じ込めて・・
そこの・・小娘はたいした金にはなりそうにない・・取りあえず牢屋でも放り込んでおけ・・
私が気を失ったらフィヌイ様が身動きが取れなくなる。なんとか起きないと・・
そう思ったが、気がつけば意識は闇へと吸い込まれていったのだ。




