微睡の中で
――微睡のなか、柔らかでふわふわの毛布に包まれているようだった。
温かくってとても幸せだ。
いつまでも、ここにいられたら良いのに――そう思った時、ふいに目が覚める。
寝ぼけた状態で、温かい何かに自分が抱きついていることに、気がついたのだ。
これは、毛布ではなく生き物。
もふもふと白い毛で覆われていて、お日様の匂いがしてとても落ちつく。
・・?
そこで、ようやく我に返ると、抱きしめていたものを慌ててぱっと離した。
――顔色、良くなったみたいだね。よく眠れた!
「・・・・!」
狼が、人の言葉を話してる!しかも、私に向かって・・いや頭の中に声が響いている・・?
あれ、まだ夢なのかな?おかしいな・・目を覚ましたと思ったんだけど・・
ティアは状況が掴めず、かなり混乱していた。
この白い狼・・眠りにつく前に見たような気がする。
・・まあ、いいか。夢の中なんだし自由に話せば――と深く考えるのは止めることにした。
狼はティアの考えを知ってか知らずか、ふさふさの白い尻尾を振っている。
「あなたが、傍にいてくれたおかげで夜は寒くなかったし、ゆっくり眠れたよ。ありがとう」
――良かった。泣いていたから心配したんだ。
「うん、もう大丈夫。これからのこと考えないといけないし、泣いてばかりいてもしかたないからね。そういえば、あなたのお名前は?」
――フィヌイ
「?・・! え~と、もう一度いいかな?」
――フィヌイだよ。 やだなぁ、忘れちゃったの。神殿の祭壇で、朝夕のお祈りの時間にいつも会っていたじゃないか。最後に会ったのは、昨日のお昼過ぎだよね。
「そ・それって、まさか・・」
その瞬間、ティアは固まった。え~と・・私の想像が正しければ、なんて口を聞いたんだろう・・!しかも、自分の名前いってなかったし。ど、どうしよう!失礼なこと言っちゃった。
頭の中の混乱を必死で抑えつつ、ティアはなんとか口を開く。
「あの・・ひょっとして、このリューゲル王国の主神フィヌイ様?」
――う~ん、そうとも呼ばれているか。でも、ティアは気楽にフィヌイって呼んでいいからね。
白い狼の姿をしたフィヌイ様は、嬉しそうに白い尻尾をぶんぶん振っている。
え?そんなに、フレンドリーな口調でいいの。神様なのに・・ティアは心の中で突っこんだが、同時に頭の中の知識を必死にかき集める。
フィヌイ様は、男神とも女神とも言われている。神殿の中にあった像も人型を象徴的に模したもの。ただ、白い狼として人の世に姿を現すこともあると伝承で伝えられていた。
――ティア、神様っていろんな姿形をとることができるんだよ。性別だって、好きなほうを選べる。だから気にしなくていいんだよ。
「はい・・」
なんだか、フィヌイ様に心の中を覗かれたようで少し恥ずかしくなってしまった。神様に隠し事はできないようだ。
――そうそう、忘れるところだった。ねえ、ティア。利き手を出してくれる。手のひらを見せて、
言われるままに、利き手である右手をフィヌイへと見せる。
ティアの白い手に、フィヌイの前足がそっと乗せられる。
これって、ワンちゃんの『お手』だよね。
肉球がぷにぷになんだ、としょうもない事を考えていると、フィヌイが語りかけてきた。
――これで『癒しの御手』が使えるようになったよ。ティアが新しい聖女、これからよろしくね。
「・・・え?」
フィヌイの言葉にティアの思考は完全に停止し、卒倒しそうになったのだ。