似たものどうし
――じつは・・ずっと前から、聖遺物が商業都市ディルにあることはわかっていたんだ。でも、取り戻しに行こうとは思わなかった。
「どうしてですか?」
――その必要がなかったから・・けど、神殿を離れてティアと一緒に旅に出ることを決めてから気が変わってね。聖遺物を回収することにしたんだ。
今のところ、聖遺物の中にある僕の神力を使われた形跡はないし、どうやらこの街の人間がコレクションとして保管しているみたいなんだ。
「ここって商人の街ですから・・きっといろんな物が集まってくるんだと思います」
商業都市ディルは、リューゲル王国のなかには存在しているが、唯一自治権を認められていた。
ディルの街は交易で潤っている。東の果てにある国の品はもちろん、海を渡った南の大陸からの品まで集まる交易の中心地として栄えていた。
人の出入りも自由で、色んな人々が集り様々な文化にふれることもできる。
商人たちにより築かれた都と言ってもいいほどだ。
自由都市として認める代わりに、王国には莫大な税金を納めているが、それでもこの都市の華やかさが損なわれることはなかった。
都市の自治も、有力な大商人たちの八人の会議によって決められている。
王国や神殿の力が及びにくいここなら、聖遺物があったとしても不思議ではない。
――うん、そうだね。ちなみに街に聖遺物があるのはぼんやりとならわかるんだけど・・正確にどこにあるかまでは、まだ特定ができないんだ。近くまで行けばわかるんだけど・・だから、しばらくは長期滞在になるよ。
「はい、そこは任せてください!」
ティアは、嬉しそうな顔で答えた。
長期滞在となれば、色んな所に出かけられる。お店もいっぱいあるし、大きな街でしかない物も買える。その前に両替商にいって、金貨を数枚、銀貨に替えておかないと・・
それから、異国の美味しい料理や、最近流行っている食べ物もたくさんあるだろうし、今から楽しみだな。
気がつけば顔が緩んでいた。
――まったく・・ティアったら遊びじゃないんだから、もう少し聖女としての自覚をもたないとね。
「大丈夫です!今の私は、表向きは旅の修道女ですから・・」
――修道女だって、もっと慎み深いよ。
「うっ・・!」
痛いところを衝かれたが、今のフィヌイ様の発言は聞かなかったことにしよう。
――やれやれ・・。とりあえずは最優先事項として、次の目的地だけど・・ここだね!
フィヌイ様は前足でトンっと地図の一点を示したのだ。ちょうど、私達が昨日の夕方に通った場所のようだが・・
「ここに、聖遺物があるかもしれないと・・?」
――ううん、違うよ。
フィヌイはふるふると首を振り、
――ここには、美味しそうな屋台がたくさん出ていたんだ。
そこにオムレットっていう、バターと蜂蜜をたっぷり使った美味しそうなスイーツがあったから、朝食はこれが食べたい! 持ち帰りもできるから、これを食べながらこの辺の捜索から始めようよ。
「・・?」
ティアは一瞬、聞き間違いかと思ったが、フィヌイ様は尻尾を大きく振りながら目を輝かせている。
「わ、わかりました・・」
――それじゃ、よろしく! 僕はこれから昼頃まで眠る予定だから、起こさないようにいつものカバンに入れてそのまま移動してね。朝食を買って、しばらくしたら起きてくるから、それまで食べるのは待ってるんだよ。それじゃ、おやすみ」
テーブルから降りると、フィヌイ様は毛布に包まり、狐のように丸くなりスヤスヤと眠りだしたのだ。
ティアはなんとも言えない表情のまま、自分の寝具に入ると眠りにつこうとする。
ぼんやり、なんとなくだが・・自分と同じように人間らしい親しみやすさを感じられ、ほっとすると同時に・・
神様っていったい・・と思いながらも今度こそ心地よい眠りにティアもつくことができたのだ。




