聖遺物の探索へ
長旅の・・しかも山越ルートは、思っていたよりも疲れるものだったらしい。
商業都市ディルの街に入ったのは夕方ごろだったか・・
先に一階にある食堂で軽い夕食を取り、二階の宿屋で宿泊の手続きをすると、自分の部屋に入りそのままふわふわの寝具の中に倒れこみ、
気がつけば、そのまますとんと寝てしまったようだ。
――てぃ・あ・・ティア・・ティアってば!
顔をぺちぺちと軽い物で叩かれているような気がした。
ティアはうっすらと目を開けるとそこには、いつもの子狼姿のフィヌイ様の顔が、視界いっぱいに広がっている。
――もう、いつまで寝てるの! すぐ、起きるって言ったじゃない・・!
遠くで、フィヌイ様の声が聞こえる。
「もう、朝なんですか・・・」
――ううん、夜中だよ。
「・・・。むにゃ、むにゃ・・すみませんが・朝までおやすみなさい・・」
ティアは寝ぼけながら毛布を頭の上まで引き上げると、フィヌイのいない逆方向に寝返りをうつ。また、心地よい夢の中に戻ろうと意識が働いたのだ。
――おやすみなさい、じゃないの!・・起きるの・・起きっててば! 起きないと説明ができないの。
頭のてっぺんまで被っている毛布を、フィヌイ様は高速で穴掘りをするように前足で毛布をはぎ取ると、
ティアの顔までてくてくと近づくと、前足の肉球でティアの顔を再びぺちぺちと叩いたのだ。
――ひと眠りしたら説明を聞くって言ったじゃない! 起きて、起きて・・起きて!
ティアが完全に起きるまでの間、肉球のぺちぺち攻撃が続き、
数分後、ティアは眠い目をこすりながら椅子に座っていた。
目の前にはテーブルがあり、商業都市ディルの街の詳細な地図が広げられていた。
ティアが街に入ってすぐ、フィヌイ様の指示で購入した物だ。
そのフィヌイ様は、テーブルの上端で行儀よくお座りをしている。
――それじゃ、説明するからね。
ティアは、眠い目でこくこくと頷いたのだ。
――この商業都市ディルを訪れた目的は、数十年前に王家から盗まれた『聖遺物』を探すためなんだ。
「聖遺物・・?って、王都にある王城の奥深くに厳重に保管されているっていうあれですか?」
――そう、その聖遺物。
『聖遺物』とは、聖女や聖人の体の一部や遺品のことを示していた。偉大な人物のものは、奇跡を起こす力があると考えられ、神殿にあれば強い信仰を、王家にあれば権威の象徴とされていた。
「ん?すると・・現在、お城の中にあるのは偽物?」
――そう、本物は盗まれたから、今、お城にあるのは複製品になっているよ。恥ずかしくって盗まれましたなんて言えないよね。王家は今でも、密かにだけど必死になって探し続けているみたいだよ。
「いや・・聖遺物ってご遺体でしょ。ミイラとか骸骨とかはちょっと・・なんというか、そういうの探すのどうなんでしょう。
・・見つけたら埋葬して・・手を合わせて、速やかに成仏してもらって土に帰ってもらった方がその人にとっては幸せかなって」
フィヌイはふくれると、前足の肉球でテーブルをぺしぺしと叩く。
――ティア、やる気なさすぎ! もっとやる気を見せないと・・
「だって、だって・・なんか怖いし・・呪われそうだし、自然の摂理に反しているような気が・・」
――盗まれたのは、この国の初代国王の遺品である飾りボタン。青くて綺麗なサファイヤが埋め込まれている物だよ・・その中には、僕の強い神力が入ったままになっているから、それを回収するのが目的なの。
「すごく呪われた宝石でないなら大丈夫。フィヌイ様の呪いなら可愛いし、なんかすごいやる気が出てきました!」
――・・??
途端にティアの顔が明るくなり、やる気に満ちている。
どうやらまだ寝ぼけていて、なにか勘違いをしているらしいティアの様子にフィヌイは首を傾げつつも、話を続けたのだ。




