~閑話~ とあるうわさ話
ここ最近、王都リオンではこんなうわさ話が広がっていた。
聖女様が、神殿の腐敗ぶりに嫌気がさし主神フィヌイ様と共に姿を消してしまったというのだ。
そんな話が街のあちらこちらで囁かれていた。
「あの噂って本当かしら?」
「例のやつか・・。主神フィヌイ様と聖女様が神殿を飛び出して、旅に出たというあれか。なんでも、いろんな土地で身分を隠し人助けをしているらしいな」
「ええ、その話よ」
「だがな・・この話には、裏があるようだ」
「なになに・・」
「大きな声じゃ言えないが聞いた話によると、今までの聖女様は素行が悪すぎて、怒ったフィヌイ様が聖女の資格を剥奪したらしい」
「・・本当に? もしかして、新しい聖女様と一緒に旅をしているってこと・・」
「ああ、神殿で働いていた人間の中に、新しい聖女様が現れたようだ」
「お、なんだよ・・面白そうな話だな」
「私も、続きが聞きたいわ」
「いいか・・ここだけの話・・フィヌイ様も聖女様も神殿にいる人間が全て入れかわらないと帰ってこないそうだぞ」
「そういえば、こんな話も聞いたわ。神殿でお祈りをしたり寄付をすると不幸になるんですって。実際、私のお祖母さんなんかそれで腰痛が悪化したのよ」
「可哀そうに・・でもこんな話も聞いたわよ。救護院の仕事を手伝ったり寄付をしたりすると、願いが叶ったり幸福になるんですって。本当かしら」
「きっとそうよ。だってこの国でも有力な貴族、カリオン侯爵家が神殿への寄付を止めたのよ。そのぶん、救護院や孤児院に寄付しているって聞いたから、間違いないわね」
「俺たち、不幸になりたくないしな」
「そうよ。フィヌイ様の天罰が下ったら大変だもの・・」
「神殿には、しばらく近づかないほうがいいわね」
気がつけば、尾ひれもつきいろんな噂が広がっていたのだ。
「ふ、ふざけるな!ここの神殿で祈りを捧げたら、不幸になるだと・・誰がそんなふざけたことを・・!!」
「お、落ち着いてください。街で広がっているただの噂ですから・・」
部下の神官は必死で、神官長をなだめる。
実際に神官長の顔は真っ赤になり、今にもこめかみの血管が切れそうになっていた。神官長は荒くなった呼吸をなんとか落ち着け整えると、部下を睨みつける。
「それよりも、ティア・エッセンは見つかったのか・?」
「いまだ、捜索中でして・・東の街道で目撃情報はいくつかありましたが、・・最も有力な、ベルヒテス山に向かおうとした矢先、急な山崩れが発生し・・捜索に向かった者たちも神の祟りだと恐れて・・その、いっこうに足取りが掴めません・・」
しどろもどろで報告する部下に向かい、顔をまた真っ赤にすると神官長は怒鳴りつける。
「馬鹿者~!! フィヌイ様が神殿に戻らなければ儂らは破滅なんだぞ!わかっているのか・・」
「そ、それと、もう一つご報告が・・」
「なんだ、いったい」
「前聖女のアリア様の姿が、先ほどから見当たりません。どうやら神殿を出て行かれたようで・・」
「そんなのは、放っておけ! たたき出される前に、自分から出て行ったのだろう。田舎にでも帰ったのだ。それよりも、ティア・エッセンだ。何としても探し出すんだ。儂だけでなく、お前らの首もかかっているんだぞ!!」
「は、はい・・わかりました」
部下の神官は祭壇の間から、逃げるようにでていったのである。




