街道での戦い?
夏の日差しの中にも秋の気配を感じられる。
そんな季節に入っていた。
それでも、涼しかった山と比べると久しぶりの街道は夏の暑さがじりじりと感じられる。やっと、深い山越えも終わり野宿生活も終わりを告げたのだ。
フィヌイ様の大きな狼の姿の中でもふもふに包まれ眠る。最高級のもふもふ布団に抱き枕は本当に贅沢で幸せだったが・・・それでも宿屋のお布団も捨てがたいもの。
そして、今日は久しぶりに宿屋で眠ることができるのだ。
商業都市ディルまではあと少し、ティアの足取りは軽かった。
もう少し歩けばディルの市街地へ入る門が見えてくる。だが、そんな時――
突然、フィヌイ様がぴたっと足を止めたのだ。
ちなみに、今は子狼の姿で一緒に街道を歩いている。
「どうしたんです?いきなり立ち止まって・・」
不審に思いティアが声をかけると、
――僕の進む前方に、敵がいるんだよ!
「敵・・? なにもいないですよ」
きょろきょろと辺りを見回してみるが、広々とした街道には旅人がそれなりに多くは歩いてはいる。後は、たまに辻馬車が通る程度だが。
別にそれらしい人の姿など見当たらない。訳が分からずティアは首を傾げると、
「特に、私にはわかりませんが・・」
――よく見てみなよ。僕の進路を妨害する奴の姿が見えるじゃないか。
ティアは、フィヌイが歩く方角の地面をよ~く見てみると、そこには・・
「え・・カマキリ・・?」
――そうだよ。僕に立ち向かおうとする、命知らずな奴がいる。
確かによ~く見れば、一匹の手のひらサイズのカマキリが攻撃態勢で待ち構えていた。
「避けて歩けばいいんじゃないですか・・道幅は広いんだし、ディルの街はもう目の前ですよ。カマキリに道を譲って先に進みましょうよ」
――この挑戦は受けて立たないといけない!すぐに勝負はつくから・・少し待ってて。
フィヌイ様はそう言うと、子狼の姿でカマキリとにらみ合い続けたのだ。
どうやら、子狼の気持ちになってしまっているようだと、ティアはため息を吐く。
ちょうど街道の端の草むらに岩があったので、待っている間、腰でも掛けておやつでも食べることにする。
お互い少しずつ距離を縮めながら、間合いをはかり。
フィヌイ様は前足で、ちょいちょいとカマキリにちょっかいをかけていた。
・・なぜ対抗意識を燃やしているのかわからないが、とりあえず見守ることにする。
待っている間に、キャラメルの包みを開け口の中へと放り込む。
ああ・・甘くて幸せ・・
カラメルの苦味と甘さ、高級感のあるナッツの香ばしさが旅で疲れた身体に染みわたる味だ。
セシルさんから貰ったお菓子、これが最後だから大切に味わっておこう。
ディルの街に入ったら、日持ちのする美味しいお菓子でも探そうかなと考えていると・・・
「キャン、キャン・・キャン・・」
フィヌイ様の声が響いたのだ。
見ればカマキリの鎌の先が、フィヌイ様の黒い鼻に刺さっていた。
――ティア~~!痛いよ~ あいつやっつけてよ~
逃げながら、泣きそうな顔でティアの腕の中に飛び込んでくる。
ティアは、やれやれと腰を上げるとカマキリを傷つけないように、草むらの中に素早く追い払ったのだ。
――鼻の頭が痛いよう。もう、歩けない・・このまま抱っこして・・。
ティアはフィヌイ様の耳の後ろから背中にかけて、よしよしと優しく撫で、
通行人が、先ほどの子犬とカマキリの戦いを見ていたようで温かく見守っていたり、失笑している人もいる。
・・この見た目、愛らしい子犬がこの国の神様だなんて・・さすがに誰も気づかないだろう。
そういうところもまた、微笑ましいと思いながらも、ティアはそのままフィヌイ様を抱っこして商業都市ディルの街へと入ったのだ。




