聖人が訪れる村 (4)
――それから数日後のこと。
ここ最近のティアの生活パターンは、二、三日置きぐらいにフィヌイ様の特訓。その合間に、村の診療所に手伝いに行くの繰り返しだった。
千年以上前にフィヌイ様と共に来た若者・・おそらくリューゲル王国の初代国王となった英雄のことだと思う。
つまりその聖人様も、ティアと同じ場所で特訓を受けていたらしいのだ。
フィヌイ様はその時の話を懐かしそうに、夜眠るときによく聞かせてくれた。
だが、よくよくその話を聞いてみると・・昔からフィヌイ様はこんな調子のようで・・
特訓を始めたとたん、いきなり死んでもおかしくないような特訓メニューなんか組まないでくれと、若者から愚痴交じりに文句をいわれたそうで、
そうだよね。その気持ち・・本当によくわかるよ・・
大昔の英雄だから、ものすごく立派な人だと思っていたけど、なんか親近感わくな。
でも私、英雄でも戦士でもなく・・『聖女』らしいんだけど・・特訓メニューってほぼ同じなんだね。
と、当時の若者に深く同情しながらも、ティアはその話を聞いていたのだ。
そんなこんなで特訓は厳しさを増していったが、ティアはなんとかフィヌイの特訓に食らいついていった。
特訓が終わったある日の夜。
ティアは疲れて、泥のように眠っていると、どこからともなくおかしな音が聞こえてきたのだ。
ごりぃ、ごりぃ、ごり、ごり――
なにかを削っているような奇妙な音だ。しかもすぐ近くで聞こえる。
ティアは眠い目をこすりながら、寝台から起き上がると、近くのランプに明かりを入れる。
音がした方角を灯りで照らすとそこには、
キラン――
金色に輝く二つの目がこちらを見ていたのだ。
「ぎゃあぁぁぁ・・・・」
ティアは思わず叫び声を上げたが、よく見てみるとそこには・・
――やあ、ティア!
子狼の姿で、ちょこんとお座りをしているフィヌイ様がいたのだ。
「こんな夜中に・・いったい何をやってるんですか・・!」
――何って・・? 爪とぎだよ。
尻尾を振りながら、てくてくとティアの傍に寄ってくる。
ティアはフィヌイを抱き上げると、
「本当に、びっくりしたんですよ・・」
――えへへ・・ごめんね。どうしても、夜に爪とぎしたほうが、いい形に仕上がるんだ!
顔を近づけると、直立耳のふかふかした感触が頬にあたり、もふもふした感触を堪能できる。
おまけに、ランプの灯りを通してみるフィヌイ様もまた可愛い。
その瞬間・・文句を言おうとしていた心が落ち着いていく。本当に癒されどうでも良くなってくるから不思議だ。
恐るべし、もふもふの力・・・
――ねえ、どっちの爪がきれいに研げているかな。
万歳をするように両前足の肉球を見せてくれる。
か、可愛いすぎるよ・・・
抱きしめたくなる気持ちを必死で我慢すると、努めて冷静に感想を述べ。
「ど、どちらも素敵です・・」
――ふ~ん、じゃあ、右足の爪の長さにそろえよう。
ジャンプすると、四本足で器用に床に着地したのだ。
――そうだ! ねえ、ティア。そろそろこの村を出るから準備しておいてね。
「ええ~ もう出発するんですか。秋まで滞在しましょうよ~」
――次の目的地のこと。ひょっとして忘れてない・・
「う・・! そ、そんなことないですよ・・。ただ、もう少し待ては秋の味覚がでてくるじゃないですか~。美味しいキノコとか、山の木の実・・栗なんかもあるそうですよ!」
――また、来られるから・・・それに、この地域の冬は早いんだよ。この村は豪雪地帯だし早めに出発しないと動きがとれなくなる。ここから商業都市ディルまでは山越えがあるから野宿も多くなるし、とにかく準備はしておいてね。
そういうとフィヌイ様はまた床で、爪とぎに専念し始めたのだ。
ティアは泣く泣く今年の秋の味覚は諦め、フィヌイと共に数日後、村を出発したのだ。




