反省しています
空が暗くなり星が輝き始めたころ、フィヌイ様は帰ってきた。
――ただいま~~ たくさん運動したらお腹が減って、もうお腹ペコペコ。
そう言いながら子狼の姿で玄関から入ってくると、小さな肉球でティアがいる部屋の戸を開ける。
「フィヌイ様、そこに座ってください。大切なお話があります!」
――どうしたのティア。顔が怖いんだけど・・せっかくの可愛い顔が台無しだよ。
なんか部屋の空気がピリピリしている。
いつもと様子が違う。怖い顔をしたティアにフィヌイはたじたじになってしまったのだ。
「そういうことはいいんです。とにかくここに座ってください!」
――はい!
ティアがびしっと指したところに、フィヌイは背筋を伸ばしお座りをする。
「フィヌイ様、私になにか言うことがあるんじゃないですか」
――え・・なんのことかな~ よくわかんないよ。
なぜか視線をそらし顔を背けると、尻尾をかくかくと振って答える。
「今日の日中、地震がありました。少し揺れた程度で大したことはなかったんですが、村の人の話では私たちが通ってきた街道側の山の斜面が崩れたそうです。フィヌイ様、何か知っているんじゃないですか?」
――え~ 知らないよ・・ そんなことがあったんだ。気づかなかったな~ 村の被害とかは大丈夫なんだよね。
「村の被害は、今のところないそうです・・」
――そう、良かったね!
「ところで・・フィヌイ様。なんで私の目を見て話さないんですか?」
――だって、ティアの顔。直視できないほど・・怖いんだもの。
「やましいことが、なければ見ることができるはずですよね・・」
フィヌイはティアの顔を一瞬見るが、すぐにさっと明後日の方向に顔を背ける。
「・・ひょっとして、私になにか隠しているんじゃないですか」
――な・なんのことかな・・全然わかんない。
どう見ても挙動不審だ。いつもはぴんっと立っている耳は今は少し垂れているし、目は泳いでいる。毛が落ち着きなく逆立っているのも気になる。
どう見ても、怪しい・・
「もしかして、山崩れはフィヌイ様の仕業なんですか」
――ええ!!
耳をぴっんと立て、驚いたように目を見開いている。
やっぱり・・
ティアはため息を吐くと、
「どうしてそんなことしたんですか・・」
――だって、だって・・神殿の奴らが追いかけて来たから足止めしたんだよ!しかも、僕の神域なのに許可なく登ってこようとしたから脅かしてやったんだ。でも、昔の僕に比べたらまだ良いほうなんだよ。これでも・・すご~く寛大になったんだから。
「怪我をした人とかいたんじゃないですか・・まさか死んだ人なんていないですよね」
――死者はいないよ。怪我人は何人かでたみたいだけど・・でもそれも自業自得だよ。
ティアが睨むと、慌てて弁解をする。
――それだって僕のせいじゃないよ。例えば、逃げなくてもいい所で転んで顔面を強打したり、足の打撲や骨折とか。後は山崩れに驚いて腰を抜かしてぎっくり腰になったとか、そんなのばっかりだもの・・
うるうるとした、子犬のような目で訴えてくる。
ティアはため息を吐くと表情を和らげる。話を聞いてみると私のためにしてくれたようだし、これ以上強くは言えない。
それにしても神殿の人たち、かなりの運動不足のようだ。こういうことは、追跡のプロとかその道の専門家に頼むものだと思っていたが・・ひょっとしてお金がないとか?
神殿に寄付金が思うように集まらず、ついにリストラが始まり・・どうでもいい人たちが、追跡に回されたのだろうか・・?
だがもし、フィヌイ様がなにもしなかったら、・・こんな調子なら山に登れたとしても崖から落ちて命を落とした人もいたかもしれない。
ティアはフィヌイに手を伸ばすと、ぎゅっと抱きしめる。
お日様の匂いがしてもふもふで、いつもと変わらない癒される温もりだ。
「もう、こんなことしないでください。私、フィヌイ様にこんなことさせたくない」
フィヌイはなにも言わずに鼻先をティアの顔によせ、寄り添うようにつけていた。
だが、急に鼻をひくひくさせるといつの間にやら元気を取り戻し、ティアの腕からぴょんと跳び降りる。
――食べ物のいい匂いがする。そういえばそろそろ夕飯の時間だよね。早く食べに行こうよ!
フィヌイ様は一目散に戸の隙間からでていくと、てくてくと居間へと向かっていったのだ。




