ランプの明かり
ちっく―・・ちっく―・・
夜、ランプのほのかな明かりを頼りに、ティアは針と糸を使い作業を続けていた。
夕暮れまでには、なんとか村に入ることもでき、
途中、色んなことがありとても疲れたが、それでも今までの日常とはまったく違う、ほんとうに密度の濃い一日だった。
この村には小さな宿屋と雑貨屋。後は畑が広がるだけの小さな村で、ふつうの旅人ならここを通過し、隣の街に宿を取ることが多いそうで、
ティア達が泊まっている宿屋は、一階は食堂、二階が宿になっている、よくある宿屋兼食堂だ。
今日の泊りは自分たちだけのようで正直ほっとしている。これならのんびりできそうだ。
ちなみにこの宿、泊まり客がいない日は、食堂と農作業で生計を立てているらしい。
夕食の後、ティアは自分の部屋に戻るとランプの明かりのもと作業を始めていた。
しばらくすると寝台の横で、狐のように丸くなり寝ていたはずのフィヌイ様が、いつの間にかてくてくと近づき傍にちょこんと座っている。もちろん、いつもの子狼の姿で。
――ティア、なにをしてるの?
「起こしちゃいましたか・・」
フィヌイはふるふると首を振り、
ふわふわの直立耳が揺れて、こんな仕草でも可愛すぎると、相変わらず訳の分からないところで感動するティアだったが、その感動は心の中にしまっておくことにする。
――なんとなく目をつぶっていただけだから、平気だよ。
「そうだったんですね。実は服の中などに、金貨を数枚、縫い留めておこうと思って作業をしていたんです」
――さすがはティア!しっかり者だね。
「エヘッ・・えへへへ。そうですが、なんか照れますね」
褒められるとやっぱり嬉しいもので、
まあ、実際これから旅を続けていれば何が起きるかわからない。
念のために、盗難や水難その他もろもろにも備えておくことにしたのだ。これぞ、庶民の知恵というもの。
取り越し苦労ならそれはそれで良し。事前の備えはするに越したことはないだろう。
「ここのお店・・小さい村だからしょうがないんですけど、品揃えがいまいちなんですよね。欲しいものが全部揃わなくって少し残念です」
――無理にここで買わなくても、次の街で買い物すればいいよ。
「そうなんですが・・できるだけ、銀貨と銅貨の枚数を減らしておきたくって、次の街では金貨を一枚、両替するつもりでいますから」
――あぁ、両替商は大きな街にしかないものね。
「はい。・・・それとですねフィヌイ様、折り入ってお願いがあるんですが」
「どうしたの・・?」
なにやらそわそわしているティアに、フィヌイは首を傾げる。
「この植物性の染料の中に前足を少し浸して、この布の上に足形をつけてくれませんか」
「え・・? 別にいいけど」
意を決したティアの言葉に、フィヌイ様はすんなりと了承してくれたのだ。それだけで嬉しい気分になる。
事前に下調べをして本当に良かった。この村でしか手に入らない染料と布を手に入れるのが彼女の目的でもあったのだ。
最低限の物はこれで手に入り、後は次の街で足りないものを買い揃えばすべては完成する。
密かな夢を実現させるため、ティアは心の中でほくそ笑む。
フィヌイは訳が分からないまま、言われた通りに前足を染料にちょこんとつけ、布の上にしっかりと足形をつける。
ティアはこのままでは前足が汚れたままになってしまうからと、もっともらしいことを言いつつ、素早く布を取りだし、前足に付いた染料をふき取ったのだ。
さり気なく、肉球のぷにぷにを堪能することにも成功し、彼女の心は幸せでいっぱいになったのだ。




