金貨と焼き菓子
なぜかはわからないが・・ティアの心は絞めつけられるようで、知らずに声が震えていた。
「私、そんなの嫌ですから・・ ここでフィヌイ様とお別れだなんて・・。
聖女に与えられる地位や名声とかそんなの興味ないし、特に聖女でいたいわけじゃないけど、フィヌイ様と別れることだけは嫌なんです。ごめんなさい・・我儘ですよね・・そんなこと言って」
なぜかはわからないが、ここでフィヌイと別れてしまったら二度と会えない、そんな予感がしたのだ。
――わかった・・だから泣かないで
「泣いてないですよ。急に視界がぼやけただけですから・・
私は自分で選択をしてここにいる。こういう人生も良いかもしれませんよ。死ぬ瞬間にも、精一杯生きたんだって実感できるんですから」
ティアは泣いていないと言っていたが、鼻をすすったり、小刻みに震えていることにフィヌイは気づいていた。
そういうことは顔は見ていなくても、空気の流れや感覚で伝わってくる。
そしてフィヌイはぺろんと頬を伝う雫をさり気なく拭う。顔をぺろんと舐めただけだよと後で言えばいいことだしね。
「フィヌイ様が傍にいてくれる。贅沢な望みかも知れないけど、それだけで私は幸せなんです」
ティアが落ち着くまで、フィヌイはその後、彼女の温もりを感じながらじっとしていたのだ。
それからティア達は黙々と歩き続けた。そして夕方になった頃――
遠くにやっと村が見えてきたときフィヌイが話しかけてきたのだ。
――そういえばティアの願いは叶えたけど、結局――金貨と焼き菓子、どっちが嬉しかったの?
ふさふさの尻尾をふりふり、期待を込めた眼差しで聞いてくる。その頃には、ティアはいつもの笑顔を取り戻していた。
「もちろん焼き菓子ですよ。特にマフィンが良かったです!」
迷いのない発言にフィヌイは首を傾げ、ポカンとした顔になる。
――え? 金貨は・・
「う~ん、それは難しい。だって正しい使い道とか、迷ってわからないじゃないですか。おまけに金ピカで眩しいし、重たいし疲れる。それに比べたら断然、焼き菓子ですよ!食べてしまえば軽くなるし、なにより美味しいから!」
――ぷぷぷっ、ティアって面白い子だね。
「え、それってどういう意味ですか?」
――ティアらしいなって、すごく褒めているんだよ。
なんか釈然としないが・・褒めていると言われたので、ティアはありがたくその言葉は受け取ることにする。
手元を見れば、フィヌイはご機嫌な様子で尻尾を振っていたのだ。




