天命に背く
太陽の光りのなか、初夏の風がひんやりとして心地よいが・・。
ティアは子狼姿のフィヌイをなぜか抱っこしながら、近くの村を目指し街道を黙々と歩いていた。
疲れが、そろそろ限界かもしれない。心の中ではため息をつき・・・思い返せばあの時――
――ティア、尻尾が痛くって歩けないよ。
うるうるした瞳でお願いされ、先ほどの後ろめたさもよぎり、フィヌイ様を抱っこして歩くことになったのだ。
クッキーを食べ終わた後も、そこら辺を元気に駆けまわって遊んでいたはずなんですけど・・と、突っ込みたくもなるが、
神様としてちゃんとお願いも叶えてくれたし・・なによりも、もふもふしたあんなに愛らしい顔で訴えられたら、やっぱり断れないよ!
あぁ・・そこが私の甘さだとはわかってはいる。わかってはいるが・・
腕の中で安心したように耳が垂れ、くつろいでいるフィヌイ様も可愛いなあと思ってしまうのだ。
しかし、治癒の奇跡を使い疲れていたことに加え、子犬程度の重さとはいえ、それを抱えたまま長距離を歩かなければいけない、その辛さもある。
こんなことなら、セシルさんに近くの村まで馬車で送ってもらえば良かったと、ティアは早くも後悔していた。
その馬車についてだが、
セシルさん達が乗っていた馬車。それを引く馬たちは不思議なことにあれからすぐに動けるようになっていた。
あれだけ前へと進むことを嫌がっていた馬たちが、急に何事もなかったように歩き始める。
その光景を見て、御者や警護の騎士たちも首を傾げ、非常に驚いていたのを憶えている。
セシルさん達は、このまま二つ先にある大きな街に向かうと言っていた。その街で宿を取っているので、今日の夕方までには着かなくてはいけないそうだ。
貴族が泊まる宿なら警護の関係などもありどこでもいいというわけでもない。こればかりは仕方がない。
セシルさんから、もし近くを通ったら領地にある屋敷まで是非来て欲しいと申し出があり、次こそはしっかりともてなしをさせてほしいとのことで、ティアは近くを通ったら必ず伺うと約束をしたのだ。
さらに、せめて近くの村まで馬車で送らせてほしいといってくれたがティアはその申し出を丁重に断った。
自分の足で歩かなければ、修道女としての旅の意味がなくなってしまうと答えたからだ。
本当はすごく疲れていたし馬車に乗りたかったが、どうしてもフィヌイ様と誰もいないところで話がしたかったのである。
名残惜しい別れではあったが、巡礼の旅に戻るとティアは、セシルさん達に別れを告げ今に至るというわけだ。
そしてようやく、街道の周りに人がいなくなったのを確認すると、ティアはこう切りだす。
「フィヌイ様、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないですか?」
――なんだっけ?
ぱちっと目を開け、とぼけている様子のフィヌイにティアは頬を膨らませる。
「とぼけないでください。セシルさん達が馬が動かなくて足止めになっていたのは、フィヌイ様の仕業だんですよね」
――あれは、馬たちに頼んだんだよ。僕たちが来るまで、その場を動かないでって。
「ほら、やっぱり・・でも、なんでそんなことしたんですか?」
――だって、ティアが聖女として目立ちたくないって言ったから僕なりに気を使ったんだよ。それに・・そのお陰であの子供の命は助かったんだよ」
「うっ・・確かにそうです。・・それに、ちゃんと焼き菓子が食べたいって言う願いも叶えてくれたので、なにも言えませんけど・・
でも、ウィル君の病状ってやっぱり・・かなり悪かったってことですよね」
――そうだね。数日しかもたなかっただろうね。念のために言っておくけど、例えティアが神殿に聖女として残っていたとしても、あの子供の命は助からなかったよ。
「どうしてですか・・」
――まあ、いろいろとね。そのうち、ティアにも話すよ。ただあの子供の寿命は、本来もっと長いはずなんだ。それなのに天命に逆らう行為をした奴らがいる。天が定めた命なら僕は動けなかった。これは例外なんだよ。
いつものフィヌイ様とは違う顔だ。
私の知らないところでなにかが蠢き、フィヌイ様はそれを見据えている。
――あの子供を『治癒の奇跡』で治療したときティアは、なにか気づかなかった。
いつになく真剣な表情のフィヌイ様に、私はなぜか緊張してしまうのだ。




