御礼SS ~ティアの結婚式~
コミカライズでお世話になった漫画家のゆんける先生からリクエストです。
ゆんける先生、遅くなりましたが大変お待たせいたしました!
エピローグ~「揺りかごの歌」の数年前の話。
※かなりのネタバレ注意です。
――空を見上げれば、透けるような青い空が広がっていた。
こんな日は一緒に旅をしていたフィヌイ様を思い出す。
真っ白でもふもふした毛並み。ふわふわの子狼の耳に、ふさふさの尻尾。
見た目はふつうの子犬だけど、私にとっては大切で可愛いわんちゃん! …じゃなかった。このリューゲル王国の主神にして偉い神様である。そして私にとっては、かけがえのないとても大切な存在――ちょうど今日の晴れ渡った青空のように、とても綺麗な青い瞳をしていたな。
今は深い眠りについているけど、私にとって大きな節目となるこの日を、心から祝福してくれていると私はそんな気がしていた。
そして私の傍らには大切な伴侶がいる。これからの人生を共に歩いていくことになる人。そう今日は私とラースの結婚式なのだ。
ラースとは、フィヌイ様との旅の途中で出会い共に旅をしていた仲間だ。旅が終わった後も私の様子をちょくちょくと見に来てくれていた。まあ、私のことを大切な家族のように思っていてくれたのかもしれないけど。でも、気がつけばお互いかけがえのない存在になっていた。
そして決して仲が悪いわけではないのだけれど…フィヌイ様となぜかそりが合わなかった、ラース。今思い出せばとても懐かしく、私とあいつとの結婚式だなんてなんだか不思議な気分だ。
――なぜか、不思議すぎて夢心地だったりする。
だって陽の光も優しく、ぽかぽかと暖かい…思わず眠たくなってくるような…。
村の広場に臨時に設けられた祭壇の前で私とラースは立っていた。今は村の司祭様のありがたいお話が始まっている最中。ラースとの誓いの言葉までは時間がかかり、長い話が続くはずなので、花嫁さんの真っ白なベールを被っているのを幸いに私はちょっと目を瞑ってみる。
思った通り、さらに温かい気持ちに心は満たされて幸せ…。
ぐう~。すぴーすぴーすぴー。
念のために言っておくが! 決してこの結婚式が退屈だと言うことではない。自慢ではないが今日のことを考え、緊張のあまり昨日一睡もできなかったのである!
私は幸せな気持ちでしばし微睡んでいると…。
「…?」
あれ? なんか急に寒くなったような。
急激に冷えこみ氷点下までなった寒さに思わず私は、ぱちりと目を開ける。その方向へなんとなく視線を向けるとそこには――。
見た目は穏やかだが、凄く怖い微笑みを浮かべるアイネ先生じゃなかった! アイネ神官長の姿があったのだ。おかしい!? 王都の神官長の立場上、忙しいうえに、かなりややこしい私の事情もあり今日はこれないはずなのに幻覚まで見えてしまうとは! これは気を引き締めなければいけないと慌てて気持ちをシャキッと切り替えることにする。
とんだ失態を見られてしまった気分になり、私は硬直すると同時に急に目が覚めガクガクガクとちょっと震えたのだ。
私のすぐ傍らでは、白を基調とした正装姿のラースがいる。また訳のわからない百面相をしやがってと、呆れ顔でこちらを見ていたのだ。私はラースに顔を向けると、恥ずかしいやら嬉しいやらでポッと赤くなる。
普段から顔が整っているから、あらためて見るとやっぱりカッコいいな~。これで口が悪くなければ言うことなしなんだけどね。とあらためて惚れ直したのだ。もちろんラースには照れて言えないけどね。
何はともあれ誓いの言葉を交わすと私たちは無事に結婚式を終えたのである。
そして――
『ティア、結婚おめでとう!!!』
「みんな…ありがとう! 私、必ず幸せになるから…」
とても親しい人たち。それにお世話になった村のみんなに祝福され私はちょっと涙ぐんでいた。
結婚式の後、私達は青空のもと村の広場でささやか披露宴を開いていた。
ここはフィヌイ様達との旅が終わった後に、私が薬師になるために今まで修業をしていた村。
師匠であるリベルさんや、私の姉弟子のエーデン。それにお世話になった村の人たちに祝福され私は幸せな気持ちでいっぱいになる。
ふいに、ここで懐かしい人の声が聞こえたのだ。
「ティア、相変わらず元気そうで安心したわ」
「?」
聞き覚えのある声に私は振り返ると、そこには今度は幻覚ではない。今まで実のお母さんのように親身になってくれたアイネ先生の姿があったのだ。
「アイネ先生…」
「ふふふっ…驚いたかしら。実はね、とある高貴な方と隣国へ向かう途中にその方のほんの気まぐれで、この村に偶然立ち寄ったの。ちょうど結婚式の最中みたいだし祝福を授けてはどうかと仰ってね。そうしたら、まさか教え子のティアに偶然出会えるだなんて、主神フィヌイ様にお導きに感謝をしなければいけないわね」
アイネ先生は私が育った孤児院の先生だ。今は、まあいろいろあり王都の神殿の神官長として忙しく働いているのだ。ふだんなら気軽には会いにはいけない。偶然とは言ってはいるが、わざわざ時間を作って来てくれたのだと私にはそう思えた。その温かさに私は嬉しくって涙ぐんでいたが、なぜかラースは青い顔をして固まっていた。
「とある…高貴な方だと…」
なぜかうわ言のように何度もつぶやいている。
アイネ先生はそんなことなど気にもせず、私の隣のラースに顔を向けると、
「ラースさん、ティアのことよろしくお願いします。ティアが選んだ相手なので…間違いないとは思いますが、念のため聞いておきたいと思います。貴方はティアのことを最後まで守れますか?」
「ああ、俺の全てにかけてティアを守ると誓う! 俺はいつもティアに助けられていた。そして俺にとってはかけがえのない大切な存在でもあるからな」
「ラース…」
ラースは真っすぐな言葉と真剣なまなざしに、私はまた涙ぐんでいた。
アイネ先生は私の複雑な出自を心配してラースにそんな厳しい問いかけをしたのだろう。けど、あいつは何の迷いもなく真っすぐに答えていた。私はそれがとても嬉しかったのだ。
アイネ先生はふと表情を和らげると穏やかな笑顔を浮かべる。
「それを聞いて安心しました。親代わりとしてあの子のことを見守っていましたが、本当に良い相手に出会いましたね。ティア、どうか幸せにね」
「はい! 私もラースのこと全力で最後まで守って見せますから!」
私は自信満々に握りこぶしをつくり、胸を張って大きな声で答えたのだ。
けど、そこで大爆笑がなぜか巻き起こっていた。私の大きな声を聞いていたエーデンやリベルさん、それに村のみんなもなぜか笑っている。
私はきょろきょろと周りを見回した。私そんなに面白いこと言った覚えはないんだけどな…。
「ウフフフ…ティアったら」
「お前な~~」
くすくすと笑うアイネ先生、ラースもなぜか渋い顔をしていた。
そこで、ふわりと優しく白い風が通りすぎたのだ。その風に乗り、白い羽のような綿毛が飛んでいた。
それは昔、フィヌイ様と山の花畑で見た光景によく似ていた。
まるでフィヌイ様が、私たちを祝福してくれている。そんな光が照らすような温かな気持ちが心に広がっていったのだ。
糖度があまりなく…コメディ風味ですね。
次回書くときは、糖度高めを目指してみます!




