ティアの食べ過ぎ ~中編~
どこかホッとする薬草の匂い。
自分の診療所の奥にある一室にて。床に敷かれた布団の中で、私はごろごろと寝返りをうっていた。
胃もたれがあまりにも酷い…。腹八分目という言葉があるが…まさにその通りだった。あんなにお腹がはち切れるほど、限界を超えイチゴを食べるんじゃなかったと今さらながらに私は後悔していたのだ。
診療所兼自宅の我が家の玄関まで、ペレさんに荷車で送ってもらったのが半日ぐらい前の話。
ペレさんは「まあ、いつものことだし、こちらもティア先生には世話になっているからな~」と気楽に言ってくれたが、ラースはそんなペレさんに深々と頭を何回も下げていたのを憶えている。
そして――ペレさんの姿が見えなくなるとラースは鬼のような形相でこちらを睨みつけてきたのだ。私は、さすがに気まずくなりさっと視線を反らすと。
お前は一体何をしているんだ――!! とガミガミガミガミと説教が始まったのだ。
心の中でフィヌイ様に助けを求めたが、フィヌイ様はお気楽な口調で「それじゃ、また後でね~」と片方の前足を上げると、子狼の姿でスタスタと歩き、息子のアルがいる診療所の中へと先に入っていてしまったのだ。
結局ラースはガミガミと怒りながらも、私に早く自分の背におぶさるように言い、ここまで運んできてくれたのである。
そして私は布団の中で、胃もたれと戦いながら何度も寝返りをうっていると、やがて奥の診療所の戸が開く音がしたのだ。
どうやら今日の診察の時間が終わったようである。
戸が開くと同時に、てくてくと小動物の足音が近づいてくる。フィヌイ様だ!
――ティア、お持たせ~。今日の診察終わったよ~。具合はどうかな?
「まだ…苦しくってまともに動けないんですけど~」
私が正直な感想を口にすると…フィヌイ様の後ろから深いため息が聞こえたのだ。
その人物は診療所へと続く戸を静かに閉めると、
「だから、俺も父さんもこうなることがわかっていたから反対したのに…母さんたら、またいつもと同じパターンじゃないか」
フィヌイ様の後ろから、深くてよく透る少年の声がしたのだ。
年のころなら十代半ばぐらい。父親似の端正な容姿に、夜のような黒い髪。ただ、瞳だけは深い青色。優しく涼しげな印象だ。
彼は診察で着ていた白衣を壁にかけると、私の前に静かに座ったのだ。
そう、そこにいたのは私とラースの子。アルだったのである。




